17 地獄の入り口へようこそ
私は書類の山と向き合った。
量は鬼のようにある、前任者がどれだけ仕事をため込んだのかといったところだ。
「しかしそんなに気が狂う程の事なのか?」
自慢ではないが私は大元帥だった時にこれ以上の仕事を平気でこなしていた。
今回と同じように触手を数人分の私という感じで進めたので十分処理できたのだ。
「それなら実際に見てみてください、前任者のグレートミノタウロスも最初はそんな態度でした」
「私をそんな牛男程度と同じだと思われては困るな」
「能書きはいいからさっさとやってください」
このオクタヴィア、本当に私に対しては辛辣である。
まあそんな事はどうでもいいからさっさと仕事を進めよう。
「まずは……これは軍務課か」
軍務課といえば戦力のはずの貴重な軍竜を三匹まとめてクソマズイ料理にしてしまった場所だ。
他にはどんな戦力がいるか、見極める必要がありそうだ。
「ふむふむ、騎竜戦艦、一隻……運用費…………! 1,500,000ゴールドだと!?」
「どうかなされましたか?」
「この金額おかしいだろ!? 何をどうやったら維持費にこんなにかかるんだ!?」
「置き場がないので、魔界の溶岩湖に浮かべてあります」
「アホか!? 装甲が溶けるわ!!!」
「ですので常に修理し続けているわけです」
前任者の気が狂う一端が少し見えた気がした。
溶岩湖に巨大な騎竜戦艦を浮かべていればそりゃあ溶けた場所から修復し続けなければいけないので維持費は建造費並みにかかる。
「何故そんな変な場所に騎竜戦艦を配置した!?」
「さて、アタシには分かりかねます、左遷されてきた時には既にありました」
「……。もういい」
これで金食い虫が一匹いることが分かった、だが他にも嫌な予感は続くのだ。
私は軍務表を見ていた、そしてまた変な個所を見つけたのだ!
「これは何だ! どうして酒代がこんなに経費として無駄に多く使われている!?」
「ああ。これは魔神バッカスですね」
「何だそれは?」
バッカスは堕落した酒の神だとは聞く。しかしこの無駄経費はいったい何なのだ?
「酒を飲まないとバッカスが暴れるんですよ、暴れた場合はこの費用の倍以上の修繕費がかかります」
「はぁ??」
「魔神バッカスを大人しくさせるには酒を飲ませておくのが一番ですから」
「もし……飲ませないとどうなる?」
「この庁舎くらい簡単に壊滅させますね」
……私はもう呆れて何も言えない。
確かに魔神バッカスの強さは四天王並みだ。
しかし統率力の無さ、周りに与える悪影響等を考え、軍に置いておいたら被害が増える一方だったのでバーレンヘイム送りになったのだ。
「という事は、騎竜戦艦、魔神バッカスだけで経費が2,50,0000ゴールドかかるってわけか」
軍事費だけでとんでもない無駄遣いだ、しかしこれを改善する方法がまるで無いときたもんだ。
厄介者を押し付ける為の島流し先がこのバーレンヘイムではあるのだが、最初からこのダメダメぶりだと他にももっとタチの悪いのが出てきそうである。
私は胃が痛くなってきた。
「どうしたんですか? この程度の書類すぐに処理できるのではありませんでしたか? まだ二枚目ですよ」
「あの……オクタヴィアさん。この書類の山、軍務だけで何枚あるの?」
「さあ、軽く人食い宝箱5箱分はあるかと」
「!!??」
人食い宝箱とはその内部が巨大な空洞になっているモンスターで、通常はその謎空間を使い倉庫代わりに使われている。
それをいっぱいにする書類の量って……一体どれだけあるのだ!?
「お……オクタヴィアさん? 人食い宝箱ってここにあるものだけではないのですか?」
「こんなの氷山の一角ですよ、開かずの間にこれの10倍以上はありますからね」
オクタヴィアが地獄の微笑みを見せた。
バーレンヘイムは……無間地獄以上の魔境だった