168 山を割るかトンネル掘るか
デストウガラシの惨劇から三日が経った。
ベッドの上で倒れていた連中がようやく動ける状態になったのは二日目だ。
しかし大事を取って一日休みにする事にした、コレで工期は少し押してしまったかもしれない。
「今日のお昼はあっさりしたものでお願いします」
「はーい、今日のお昼は炊き込みご飯だよー」
ご飯というのはウー・マイの国で食べられていた米を煮て蒸したものである。
特別な言い方では炊くとも言われているやり方らしい。
オイオリュカは一通りウー・マイのやり方を学んでいるようだが、あのデストウガラシソースの一件以来、皆の見る目が疑いの目になっている。
まあ一度やらかすと信頼を取り返すには十以上の実績を重ねないと難しい。
そんな状態ではあるが、どうにか動ける状態になった連中を見舞いに来たのはオクタヴィアだった。
「皆さん、無理はしないで下さいね。皆さんがいてようやく成り立つのですから。あの役立たずの変態触手無能魔族が足を引っ張るかもしれませんけど、頑張ってください」
何ともヒドい言われようである。
今回の一件、私も被害者なんだが、そんな風にはとても見られていないようだ。
お見舞いを済ませると、オクタヴィアは仕事があるからとすぐに庁舎に戻った。
「うううー、ゴツいエラい目に遭ったわー」
「アリアさん、まだ無理しないで下さい」
「ありがとうな。あのな、ウチ寝とる間に変な夢見たんよー」
「変な夢……ですか?」
「せやせや、ウチを追い出したヤツらのおる元々のウチの巣が別のアリ軍団に襲われる夢や、なんかめっちゃ生々しくてな、どうも嫌―な予感がするねん」
「それはあまり良い話ではありませんね、この工事が終わったら一旦西の砂漠地帯に行ってみましょう」
「ダーリン、やっぱウチのこと心配してくれてんねんな、大好きやで」
スミマセン、抱きつくのは勘弁してください。
また呪いで私が酷い目に遭います。
「ちょっと勘弁してください、ここでは人目がありますので」
「えー、ほな人のおらんとこやったらええんか?」
アリアが意味深なジト目で私を見てきた。
私は魅了に耐性があるとはいえ、何かいい匂いが漂ってきて少しいい気分になってきた。
「ていっ!」
「だーっ!! 何すんねん! いきなりチョップするボケは誰や!」
「抜け駆けは許さないのだ」
「げーっ、チンチクリンやんけ、アンタも目覚ましたんかいな」
「全く油断も隙も無いのだ。何フェロモンを撒き散らそうとしてるのだ」
「チッ、バレてもうたか」
何ですか、フェロモンって……。
それって相手を臭いで魅了するガスみたいなもんじゃないのか?
私はいつからアリアに魅了されていたというのだ。
「バレたとかの問題じゃないのだ、全く何を考えてるのだ!」
「そこまで怒る事あらへんやん、ほんのおちゃっぴいやってー」
この二人をここに置いたままだとまた女同士のケンカが始まってしまう。
私はどうにかこの状況を変える方法を考えた。
「二人共、少しお話がありますが、いいですか?」
「何なのだ?」
「何やー?」
よし、どうにか話題をそらすことはできた。
それではここから強引ではあるが工事の話に持って行ってしまおう。
「今回のこの一件で、工事の工期に数日ずれが出てしまいました。それをどうやって取り戻せばいいと思いますか?」
「うーむ、とりあえずゴーレムくんフル稼働なのだ。デカい奴に山を切り崩させたら谷になってそこに線路を敷けばいいのだ」
「とりあえず、穴掘った方がええんちゃうんか? 山崩したら雨降ったらそこから一気に土砂崩れ起きるで」
この話を聞く限りはアリアの言っている方が信ぴょう性は高い。
突貫作業で工事をしたとして、山を一気に真っ二つに割るのは得策ではないだろう。
「そうですね、それでは少し工期が伸びてもトンネルを掘る形で進めましょう」
「やった! ウチ張り切って働くでー」
「ちぇっ。残念なのだ……」
とりあえず明日から再び工事再開、大きな山に線路を通すトンネルを掘ることになった。