163 移動しながら寝れる場所
機関車ドーモスは魔石を燃料に動いている。
そしてその魔石を口で取り込んだ後、バリボリバリバリと噛み砕く音がまたうるさい。
よくもまあ、これだけ不快感の塊を集めた物体が作れたものだ。
だが不快なのは見た目だけで、能力が優秀なので文句をつけたくても付けられない。
現実問題、この機関車ドーモスはトロッコや魔獣車では運べないような多くの量の荷物を問題無く運ぶことができている。
この効率のよさならドーモスの後ろに車輪付きの荷車をつければ線路工事も荷物の輸送運搬もかなり楽にできる。
「ご主人様―。荷物を運ぶ程度なら我の背中に乗せれば一瞬で運べますのにー」
今日は暇だったファーフニルも工事現場を見に来ている。
「確かにそれは空も飛べるし便利だと思うんです。でもファーフニルさん、夜寝る間も惜しんでずっと荷物を運べと言われて出来ますか?」
「それは、夜はゆっくり寝ていたいですー」
そりゃあそうだろう、ファーフニルは有能な怠け者といったタイプだ。
本来なら動かずゴロゴロしていたいところだろう。
「夜皆さんが寝る時間にも荷物を運んでもらえる、それがこの機関車並びに鉄道敷設計画の目標なんですよ」
それを聞いたファーフニルが納得していた。
「確かにそれは我にはできぬこと、それならその不気味な物体に任せる方が良さそうですー」
ファーフニルも機関車ドーモスを不気味な物体と言っている。
やはり私がおかしかったのではなく、パラケルススの美的感覚がおかしいのだろう。
「さて、工事を進めるとしましょうか」
「せやな、ほなみんなそのキモいのの後ろに乗るんやでー」
アリアの指示で土木班は後ろの貨物車に全員が乗った。
しかしサイクロプスやミノタウロスといったヘビー級も乗っているので、これが魔獣車だと魔獣がへたばってリタイアしてしまう重さだ。
「やあ、ボクに任せてよね。それじゃあ行くよー」
機関車ドーモスの何とも甲高い不快な声が聞こえた後、彼は下部の車輪を回して走り出した。
その速さは速さ自慢の魔獣をあっという間に追い抜き、線路の途切れる寸前までかなりの距離を移動した。
「さて、皆さん。ここからまた工事を進めますよ」
「よっしゃー! みんなやるでー!」
アリアが気合を入れて工事をスタートした。
大型のサイクロプスやミノタウロスが大きな鉄鋼を軽々と持ち上げ、どんどん地面に置いていく。
それを中型の魔物がつなぎ合わせ、小型の魔物が掃除をする。
このローテーションで作業を進め、一日で結構の距離の線路を敷設することができた。
「良いペースですね。この速さだと結構予定よりも早く線路が完成するかもしれませんね」
「せやな。それもこれもウチが工事の天才やからな、もっと褒めてええんやでー」
アリアがドヤ顔を見せている。
どうして私の周りにはこういったドヤ顔をしたがる女ばかりいるのだろうか……。
そして昼食の時間がやってきた。
「そういうたらこの貨物車っての、部屋みたいな感じやない? ここの中に食堂とか寝れるとこ作ったらどこでも旅行行けるんちゃうのん?」
アリアが面白い発想を出してきた。
確かに移動用だけと考えていた鉄道だが、これをきちんと機関車の後ろに部屋になる荷車を作る事ができれば移動しながら寝ることのできる特別車が作れるかもしれない。
「それは面白いアイデアですね。では鉄道が完成したら次はそれを作ってみましょう」
「それならワシに任せるのだー」
また出たよパラケルスス。
今度は一体何をしようというのだ? このマッドサイエンティストは。
「ワシがとーってもよく寝ることのできるベッドを作ってやるのだー」
何だか嫌な予感しかしないが、私はまたパラケルススの珍事に振り回させることになりそうだ。
そして当のパラケルススは、何やら図面を引き始め、少し変わった物体を作り始めた。




