152 ちゃぶ台返し
今のところ、趣味の悪さ以外では、特にオートマチックスマートハウスに欠陥は見えない。
「この家の凄い所はこれから後もあるのだ」
パラケルススがボタンを押すと、カーテンが閉まって真っ暗になった。
「これは完全遮光カーテンなのだ。太陽の光の苦手なバンパイアでもこれなら昼間起きてられるのだ」
確かに夜行性の魔物もいる。
そう考えるとこの暗さを保つのは悪いものではない。
「これは考えましたね」
「だがそれだけではないのだ、ポチッとな」
パラケルススが別のボタンを押すと、辺りにはまぶしいばかりの光があふれた。
「な、なんですかこれは!?」
「これは採光した光を蓄積して倍加させた照明なのだ。これがあればどれくらい暗くても一瞬で昼間くらいの明るさになるのだー」
こんなもん間違えてバンパイアがボタンを押したら一瞬で灰になるほどの光の量だ。
「聖属性耐性のある私でもこれは結構キツいですよ! こんなものをバンパイアが浴びたら一瞬で消滅してしまいます!!」
「ちぇっ。せっかく採光のシステムを取り入れて快適空間を作ったのに没になってしまったのだ」
「まあまあ、気にせんときーな。修正はウチがするよて」
とりあえずこのシステムは見直す必要がある。
他のシステムとしては何があるのだろうか。
それにしても部屋は殺風景である。
「すみません、テーブルとかは無いのですか?」
「テーブルは収納式になっているのだ」
パラケルススが紐を引くと、前の壁が手前にせり出してきて私は弾き飛ばされた。
「グボォッ!」
「ありゃ、そんな所にいると危ないのだ」
私は腹部をせり出してきたテーブルに強打され、一瞬息が出来なくなった。
「テテンタクルスー、そんなとこでなぜうずくまっているのだー? 椅子が出てくるから危ないのだー」
「え!?」
グガゴンッ!
私はせり出してきた椅子の直撃をうずくまっていた顔面に喰らってしまった。
「あーあ、言わんこっちゃないのだ」
「……!!! !!」
私は今度は口に強打を喰らい、一瞬話す事ができなかった。
このやるせない怒りをどこにぶつければいいのだろうか。
「とにかく椅子に座るのだー」
椅子に座らされた私は何故かベルトで縛り付けられてしまった。
「これはワシが魔獣車につけようとしているシステムの試作品なのだ。椅子から出た高速具が身体を安全にガードしてくれるので、椅子から転げ落ちないのだ」
いや、家の中でそんなシステム必要ありませんって。
それにこれでトイレとか行きたくなったらどうすれば良いんですか?
「あの、パラケルススさん? トイレとか行きたくなったらどうすれば良いのですか?」
「それも想定済みなのだ、そこですればいいのだ!」
「へ??」
パラケルススが別のボタンを押すと、椅子の蓋部分が開いて中から便器が出てきた。
あの、この状態ではズボンからどうやって用を足せというのでしょうか?
しかもこの椅子って、食事とかにも使う椅子なのではないのか?
そんな椅子を使って用を足すとは、これはミソもクソも一緒という状態だ。
とりあえずせめて食事の空間と排泄は別の扱いにしないと。
「この椅子はちょっと見直した方が良いです、これそのままでは衛生的に問題があります」
「仕方ないのだ、そういうことも考えた上で見直しが必要なのか」
パラケルススは合理的と何でも一緒くたを同一視しているので、これでは快適環境を作るという話とはかけ離れたものだと言える。
風呂とマッサージの点は改善が見えたが、このオートマチックスマートハウスの見直し案はまだまだ詰める必要があるだろう。
とりあえずこの家は快適環境とはまだほど遠いと言えるので、大幅な修正案を出してもらい作り直す必要がある。
「全然ダメダメです。もう一度やり直しです」
パラケルススとアリアのオートマチックスマートハウスはちゃぶ台返しになってしまった。