141 土木班のアイドル(実践派)
ダボダボの作業着姿のアリアは朝から土木の作業現場に来ていた。
「おはよーさん」
「おはようございますッ姐さん」
姐さん呼ばわりがもう定着したアリアは、すんなりと現場の作業班に迎え入れられた。
アリアは作業着にヘルメットをかぶった姿で作業班に挨拶をした。
「今日から現場はいらせてもらうアリアや、よろしゅーな」
アリアの挨拶に現場のむさい連中が歓喜した。
アリアがなぜ現場に来たのかというと、先日のから揚げ定食を食べ過ぎて少し太ってしまったのでそのカロリーを消化するためだ。
だが、そんな理由は現場の連中が知るわけもない。
「とりあえず、ここの現場の図面持ってきたでー。ウチの巣を作った時のやり方使えんかなー思てな」
アリアは図面を広げた。
ここはどうやら地下トンネルを作ってそこから川の反対側に抜ける道を作る工事をしている場所のようだ。
だが、思った以上に川が深く、浸水してくる危険性から工事は難航していた。
「でもなー、もし予算に余裕があるならなー。崩落する危険性あるトンネルよりは橋作った方がええと思うんやわ」
「姐さん無茶言わんで下さい。材料費が足りませんよ」
「アンタらアホか? 材料なんて現地調達でええやろ。そこら辺の木を見てみーな」
この辺りは人面樹の森の近くである。
人面樹は見た目は気持ち悪いが特に害がなく、単に魔素で侵されて人のような顔になっているだけの人畜無害な木である。
「うへぇ……あんな気持ちの悪いの使うんですか?」
「あんなモンただのキモいだけの木やろ。あんなモンに怯えるなんてアンタらそれでも下の玉付いとるんかいな!」
アリアの叱咤で土木班の連中は渋々人面樹を伐採し始めた。
人面樹は気持ち悪いだけではなく、切られる時に断末魔の絶叫を上げていた。
「うへぇー。これマジでキモいなー……」
その上人面樹は伐採される際に人間の血のような樹液を大量に垂れ流すので、その見た目は地獄絵図になっていた。
「コレ精神ごっそり削られるやっちゃなー」
アリアは斬られてうめき声をあげる人面樹を見てドン引きしていた。
だが伐採された人面樹は数時間もすると、動かなくなりただの木のようになった。
「ところで姐さん、あの川結構デカいんでどうやって一本の大きな橋を架けるんすか?」
「それはきちんと考えとるで、あそこにはでっかい橋作る必要ないねん」
「一体どうするつもりで?」
アリアがドヤ顔で指を作業班の連中に示した。
「あそこは可動橋にするねん」
「可動橋??」
「つまりや、あそこの川にでっかい橋作ろうとしても木の長さが足りないよてなー。この木でも橋を作るには両方側から橋を作って真ん中で留めるっちゅーわけや」
アリアのこの発想に土木班の男達が感心していた。
「なるほど、姐さん。それなら確かに足りない部分を無理して作る必要ないっすね」
「その上で真ん中には高めに川の下から橋げたをぶっ刺すっちゅーわけや。ここには木やなくてでっかい石置くんやでー」
アリアのアイデアは早速住宅課の上の方に書類の修正を出され、この案はすぐにゴーサインが出された。
「凄いっす、姐さん。おれ達は地下トンネルを掘る事ばかり考えてましたし、デザートアントならトンネルのエキスパートだと思ってたのに……まさか橋を作る事思いつくとは」
「ウチなんか褒めても何も出ーへんで。でもありがとうな」
そして土木班は早速作業に取り組んだ。
アリアもデザートアント族だけあって力は他の魔族よりも優れているので、言い出しっぺのアリアが橋の真ん中に置く大きな石を担いで川の中に放り投げた。
その凄い振動で川の中にいた人面魚が何匹も水の上に浮かんできた。
だがそんな物は気にせず、アリア達は一日の突貫作業でほとんどの橋の工事を進めた。
「よーし、後は稼働の橋をどうやって真ん中で留めるかの方法やで」
アリア達は二つの短い橋を真ん中で留める方法を、土木班のみんなで話し合った。