139 アリアの初仕事
「ウチの名前は『アリア・アントシアニン』デザートアントの元女王や。よろしゅーな」
アリアが土木班の魔族達に挨拶をした。
土木班のむさい連中は美人が入ってきた事でテンションが上がっていた。
「おう、アリアちゃん! オレたちに任せな」
「抜け駆けすんじゃねーよ、俺もよろしくな!」
「おめーら、鼻の下伸ばしてんじゃねえよ。アリアちゃん。コイツらのことはあんまり相手すんなよ」
アリアはニッコリと土木班の連中に挨拶をしていた。
「えー、みなさん。アリアさんは仕事をしていない時期のブランクがかなりあります。それでもよろしくお願いしますね」
「ヤローに用はねーんだよ、さっさと帰れー」
私は土木班の連中に罵声を浴びせられた。
まああんな連中にどうこう言われても大したことはない、私は連中のブーイングを無視したままアリアに話しかけた。
「アリアさん、とりあえずできる仕事を考えてくださいよ」
「わかったわい、ウチに任せっちゅーねん」
アリアはデザートアントの姿ではなく、擬態した姿のまま過ごすことにした。
「ちぃっと。この服ダボダボやなー」
アリアが作業着に着替えてきた。
作業着姿でヘルメットをかぶったアリアを見た連中は更にテンションが上がっていた。
こいつらはどこまで盛り上がるのだろうか。
「では始業開始の時間です。みなさんがんばってください」
私は土木班にアリアを残し、住宅課の方に戻った。
「ほな、始めるでー」
「「「オオオォー!!」」」
廊下の外まで土木班の声が聞こえてきた。
「で、ウチなにすればええねん」
「アリアさんはそこに座っていてくれればいいんですよ。仕事は俺たちがやりますから」
「そうそう、アリアさんはそこにいるだけでおれ達の元気をくれるんです」
「けったいなやっちゃなー。ウチなんか調子狂うで」
アリアは何もしなくていいと聞いて、その場で椅子に座った。
そして土木班は次々と現場に繰り出していった。
アリアはやる事が無く、壁の穴を数えていた。
「あー、退屈やー。これやったら仕事というよりロイヤルニートそのまんまやーん」
アリアは椅子に座っているのが馬鹿馬鹿しくなったのか、机を横に何個か並べ、その上にシーツを敷いてごろりと寝転んだ。
今は土木班の事務所に残っているのはアリアだけだ。
退屈な彼女は仕方なく、寝転がったまま辺りの本を探した。
「あーヒマやー。何かおもろい事ないんかいなー」
しかしそこにアリアの面白いと思えるものは特に何もなかった。
仕方なくアリアは土木の本を読んだ。
「なんや、これ……ウチの巣を作った方法と同じかいな」
寝転がっていたアリアは土木作業の本を読んでいるうちに、姿勢が真っすぐになっていた。
「こんな方法あるんや、これやったら面白そうやん。強度も保てるってわけやな」
ロイヤルニートだったはずのアリアは、土木の工事法の本にのめり込むようになっていた。
デザートアントは本来巣を作ったり穴を掘ったりする習性を持っている。
それゆえにアリアはデザートアント族として、土木工事に興味を持ったようだ。
「よーし、やる気でてきたでー。ウチならこれ全部覚えれるわ」
アリアは紙とペンを用意し、自分なりの図面や工事法を色々と考え出した。
そしてそんな風に時間が過ぎる中、土木作業に出ていた魔族達が次々と戻ってきた。
「あ……アリアちゃん? 今何やってるの?」
「うっさいわ! 今ウチに話しかけたらボコるで!」
アリアは何かに憑りつかれたように本と向き合い、ペンを走らせた。
「あの……もうすぐお昼なんですけど……」
「だから黙っとき言っとるやろ、シバかれたいんかいな」
鬼気迫るアリアの姿に大の男達は誰も声掛けをできる状況ではなかった。
「出来たでー! これならウチの考えた通りになるはずやー」
アリアが図面を作り終わったのは丁度お昼になった時だった。