137 なんなんなんってなんなんなん?
「ふえーん、ウチ宿無しなってしもたー」
アリアはさっきから泣きっぱなしだ。
早くその超音波を撒き散らす鳴き声をやめてくれないと、こっちの身がもたない。
とりあえず仕方なく私達は騎竜戦艦に戻った。
砂漠で夜に外にいるのは自殺行為だ。
昼はとんでもない暑さで、夜になるとマイナスまで凍る。
幸い騎竜戦艦はエネルギーが貯えられたことで空調が生きていたので私達は無事戻る事が出来た。
「さて、明日の朝まで戻らないとなるとサボりとみなされますので、そろそろ帰りますよ」
「了解なのだ、騎竜戦艦発進なのだ」
騎竜戦艦は上空に舞い上がり、そしてバーレンヘイムの庁舎の方に向かった。
その時私達は気が付いていなかったが、下の方には別のデザートアントの群れが隊列をなしてアリアの巣に向かっていたらしい。
私達は明け方前に庁舎の近くの水路まで戻り、そこから歩いて宿舎に戻った。
「仕方ないから今晩はここに泊めてあげますよ。同居人は他にもいますので」
「ホンマおおきに。ウチダーリンの為に何でもやります。だから可愛がったってなー」
エリザベータがアリアをジロジロ見ていた。
ファーフニルは今日寝たまま起きそうにない。
「へー、これがデザートアントの女王ねェ。女王にしては威厳も何もあったもんじゃァないわねェ」
エリザベータが辛辣な事を言ってしまった。
しかし、事実は事実なのでアリアは反論できなかった。
ここにパラケルススがいないのがせめてもの救いか。
今パラケルススは騎竜戦艦に住んでいるようなものだ。
「ううー、腹減ったーメシ食わせー」
アリアの態度がワケわからない。
しおらしいのかと思いきやいきなり態度が大きくなる。
しかも本人には悪気が無いからタチが悪い。
「一昨日の残りものでよければどうぞ」
私は一昨日食堂でウー・マイに作ってもらった弁当の残りをアリアに渡した。
外で食べる事前提で作っていたので、生ものを使わず保存のきく材料で作っていたので今日くらいまでは問題なく食べれるものだ。
「なんやこれ、ごっつ美味いやん!」
アリアは弁当の残りをすぐに平らげた。
このまま置いておいても傷んで捨ててしまうことになるものだったので、特に問題は無さそうだった。
「ごっそーさん、ありがとーな」
アリアが笑顔を見せた。
デザートアントの姿ではなく、擬人化しているとはいえ……アリアも黙っていると美人の部類に入るのだろう。
「テンタクルスー、飲もうぜー!」
またまたまた来訪者だ。
この声は間違いなくリオーネ。
「アンタ。誰なん?」
「お? テンタクルスー、この虫みたいなヤツ誰だー?」
アリアがリオーネの言い方にカチンときたらしい。
「虫みたいなとは失礼なやっちゃな! ウチは『アリア・アントシアニン』デザートアントの……元……女王や!」
いや、間違ってないけど。クーデターで巣を追われた女王アリが偉そうに自己紹介していいのか?
「そっかー、まあよろしくな。アリアってよべばいいのか?」
「馴れ馴れしいやっちゃなー。アンタってなんなんなん?」
アリアがリオーネに挑発的な質問をした。
「なんなんなん? それどういう意味だよ?」
「なんなんなんはなんなんなんや、その意味すら分からんってなんなんなん?」
あの……わたしにも言葉の意味がよく分からないです。
その、なんなんなんってどういう意味なんでしょうか?
「あの……二人とも落ち着いてですね、とりあえず座りましょう」
「ダーリン、ウチこの女嫌いやー」
「あー! テンタクルスはオレが子供を産むんだよー」
「なんやねんしょぼい数しか産めんくせに。ウチなんて一気に数十数百産めるねんでー」
あの、マジでくだらない争いするくらいなら二人共出て行ってください。
「さっきから聞いてたらアンタ達くだらなすぎるのよォ!」
ブチ切れたエリザベータがアリアとリオーネの二人を氷漬けにしていた。
ファーフニルはそんな様子に気が付かずずっと寝たままだった。