136 アリの巣のクーデター
アリアの女王としての威厳はもう地の底まで落ちている。
パラケルススの信用とどっこいどっこいのド底辺だ。
「ダーリンー。ウチな。女王という責務を日々がんばっとんねんでー」
「あ、はいそうですね」
もうさすがに私もアリアに振り回されるのにうんざりしてきた。
パラケルススよりも短いたったの二日間でよくこれだけマイナスを重ねられるものだと感心するくらいだ。
だが本人にはその自覚が全くない。
女王アリだからという根拠のない自負があるのだろうか。
「だからなー、ウチダーリンと一緒に居たいねん。もし役所行くなら婚姻届ついでに出しに行くけどええか?」
「は??? 貴女は何を言っているんですか??」
アリアが目をハートにして私を見つめている。
「ウチな、あれだけ真剣に怒ってくれた相手初めてなんよ。ウチのことそれだけ大事に思ってくれるから怒ってくれたんやろ」
これまた面倒臭い展開になりそうな悪寒を私は感じた。
「ウチ、本気やねん。ダーリンのためなら家族も捨てる、だからウチを捨てんといてー」
何だこの展開は。
デザートアントの女王の誇りなんてどこに行ったのやら。
「アリィッ!!」
運の悪いことにそれを聞いていた兵隊アリがいてしまったようだ。
兵隊アリ達はアリアの失言をあっという間に巣の中全体に広めてしまった。
「「「アリッ! アリッ! アリッ!!」」」
「「「アリッ! アリッ! アリッ!!」」」
兵隊アリ達が凄い数でアリアと私を取り囲んだ。
どうやら間違いなく怒っているようだ。
「アンタら……一体どうしたん、なんでそんなに怒っとるねん?」
「アリィー!!」
「誤解やー! 冗談本気にするアホがどこにおるねんー!!」
いや、あのハートマークはどう見ても冗談とは思えなかったんですが。
「アリアリアリィ!」
「あの、彼らはなんと言っているんですか?」
「ウチに……お前なんて家族じゃない、出ていけ言っとるねん……。なんやねんこの恩知らずどもー!!」
いや、それは間違いなく貴女の自己責任です。
しかしクーデターを起こされた女王アリとは、前代未聞だ。
「アリィー!!」
兵隊アリ達が槍で私達を攻撃してきた。
アリは四方全部から私達を取り囲んでいる。
「ウチが、ウチが悪かったー、許してーなー!!」
「アリアリアリィ!!」
アリアに兵隊アリ達がどんどん迫ってきている。
これは本当に、クーデターが起きてしまうのかもしれない。
「もーアカーン! ウチもうオシマイやー!!」
私達はデザートアント族に捕まってしまった。
このままでは本当にデザートアント族にアリアもろとも殺されてしまうかもしれない。
「お願いしますー、もうウチ女王やなんて威張りません、心を入れ替えてみんなのために働きます、だから堪忍してーやー」
ついにアリアが大声で泣き出してしまった。
その鳴き声は巨大な超音波になり、兵隊アリ達はその音波で次々と倒れてしまった。
「え……何やねん、ウチ泣いて損したんちゃうんか」
「今はそれどころではありません!」
「何や、ダーリンもアリのダジャレ言っとるやん」
「そんな事言ってる場合ですか!!」
私達はどうにかこうにかで、デザートアントの巣から脱出しようとした。
その前に誰かの影が見えた。
「アカーン!」
「ワシなのだ、美少女天才錬金術師のパラケルススちゃんなのだ」
「なんや、チンチクリンかいな。こんなとこで何しとんねん」
パラケルススの後ろにはアントニオが立っていた。
「今からこの巣を脱出するのだ。何だか知らないが兵隊アリ達がメチャクチャ怒ってるのだ」
アントニオがドリルで穴を開けて脱出口を作ってくれた。
だが、その巣の入り口の所に一番厄介な奴が立っていた。
「アンタは……モハメド」
「アリィ……」
「そうか、元気でな。無茶するんやないでー」
どうやらモハメドはアリアを見送るためにここで待っていたらしい。
そして、デザートアントの女王だったアリアは、自らの失言によるクーデターで巣を持たない独り者になってしまった。