130 マグマダイバー
このままではアントニオが溶岩に落ちて溶けてしまう。
「触手よ伸びろ!」
私は触手を伸ばし、アントニオを絡めて持ち上げた。
「はうううー、アントニオくんを助けてくれてありがとうなのだ」
「それは良いんですが、どうするんですか、このままサンドイーターが追いかけてきたら結局私達は溶岩に落ちて一巻の終わりですよ!!」
「フッフッフー、そこはワシにきちんと考えがあるのだー」
パラケルススはもう信用がゼロどころかマイナスを突き切っている事に気が付いているのだろうか。
「もう聞くだけ無駄だとは思いますが、一応聞きましょうか。一体何をどうするつもりですか?」
「テンタククルス、慣性の法則って知ってるか?」
「完成? 出来上がった法則ですか? それが何を」
「違うのだ、慣性の法則。つまりはものは動き続けようとすると動き続け、止まっているものは止まったまま動きたくないって法則なのだ」
パラケルススの言っていることがワケわからない。
そりゃあ動いてるものは動こうとしますし、止まったものがいきなり動き出すこともないでしょうが。
「何を言いたいのか全く分からないんですが」
「今は時間が無いのだ。とにかくアントニオくんに今度は上に向かう穴を掘ってもらいさっさとここから逃げるのだー」
それでどうなるというんでしょうか。
それだと下に向けて掘った穴は何も意味がなく、ただ溶岩の上側をかすめるだけで終わるような気がするんですが。
「ダアアー!」
アントニオはパラケルススの命令で上に向かう穴を斜めの坂の形に掘り始めた。
だがそんな躊躇なことをしている間に、後ろからどんどんサンドイーターが迫ってきている。
今の私達には逃げる場所も無ければ、戦う技も無い。
そんな状況で後ろからサンドイーターが迫ってくる。
下り坂なのでそのスピードは物凄い速さになっていて、その巨体でそのスピードを出しながらどんどん大きな穴を掘り進めて私達に向かってきている。
「どうするんですか!? もう逃げ道は無いんですよ!!」
「大丈夫なのだ、心配ないのだ」
だからもうそれは聞き飽きたし、全く信用できません!!
その上サンドイーターはどんどん私達との距離を縮め、ついに溶岩の真上の穴まで到達した。
「アントニオくん、上に向かう穴を掘るスピードを速めるのだー!」
「ダアアー!!」
今頃になって逃げるとしてももう遅いような気がする。
私は絶望的な状況を受け入れるしかなかった。
だが、事態は私の想定を超える状況になっていた。
ドボーン!!!
「やったのだ! ワシの狙い通りなのだ」
パラケルススが大声を出した。
「ギャギャグェェェー!」
サンドイーターはなぜか上に向かってこず、そのまま巨体ごと溶岩の池に突っ込んだ。
「テテンタクルス、これが慣性の法則なのだー。つまりはサンドイーターは下に向かって動き続けようとした。これに勢いと重力まで追加して凄い速さになった。その速さでは下には向かえても上にいきなり上がることは出来ないのだー」
サンドイーターは溶岩の中でどんどんと溶けていった。
その巨体の跳ね上げた溶岩が私達の足元まで飛んできた。
これを避ける為に上に向かう穴を掘れということだったのか。
頭を失い、再生しようとするサンドイーターだったが、その再生力は溶岩に説ける速さに追いつかなかった。
そしてどんどん溶けていったサンドイーターは尻尾の先までもが全て溶岩の池に沈んだ。
「ど、どうやら本当にサンドイーターは死んだみたいですね」
「そうなのだ、奴は生命活動を停止、死んだのだー!」
サンドイーターが溶けて死んだことで、私達は安心して上に向かう穴を掘り地上の砂漠に出る事が出来た。
辺りはもうすっかり夜になっていた。
私達は騎竜戦艦、戦闘巨人ゴライアスに向かい、再び乗船した。