12 とりあえずは総督府見学を
オクタヴィアは終始不機嫌だった。
しかし下手に何か言うとまたフルボッココンボ攻撃を喰らいかねない。
「わかった、私が悪かった!」
「まあ、謝るだけマシか……アタシは貴方を許します!」
しかしこれで執政官としての威厳は失墜したのは確定である。
今はヒエラルキー的には彼女の方が上と言えよう。
「ところで、執政官代行って事は……前任者は?」
「気が狂って死にました」
「はぁ!?」
「……で、ではその前任者は?」
「拒食症で餓死しました」
「へ??」
「で…………では、その前任者は??」
「探さないでくださいと書置きをして失踪しました」
「???」
わけがわからない……ここは一体どんな場所なのだ??
「まあこんな場所ですからね、みんなおかしくなってアウトってわけよ」
「貴女は何故そんな状態で?」
「テメェがアタイをここに送り付けたんだろうがァ!!」
ダメだ、これ以上怒らせるとまたフルボッコにされる!
「わわわわかった……とりあえず落ち着け」
「いいでしょう、アタシをこれ以上怒らせなければ殴ったりしませんから」
この女、知的な見た目に対して中身はゴリラみたいなやつだ。
「まあ今晩は貴方の就任祝いのパーティーをささやかながら執り行いますので、主賓らしく振舞ってください」
「パーティーだって?」
「ええ、どうぞお楽しみください。最後の晩餐になるかもしれませんから」
「?」
オクタヴィアが意味深な事を言ったのだが、この時の私は意味が分かっていなかった。
「まあ気になるようでしたらどうぞこの執務室以外もご覧ください」
「わかった、では私は失礼する」
私は執務室を窓から出るとバーレンヘイムの全土を治めるこの総督府をパーティー開始までじっくり見る事にした。
総督府は大きな建物だったが、部屋の大半は鍵がかかっていて入れなかった。
守衛に尋ねたが入れない部屋の鍵はどこにあるのかわからず結局入れずじまいだった。
その次は軍部に行ってみたが立派な竜舎があった。しかし中には誰もいなかった。
「あれ? ここには軍竜がいるのではないのか?」
「あー軍竜なら、今晩のご馳走になるからもういないよ」
「!!?? 軍竜がご馳走??」
「まあ料理人が久々に腕を振るえると喜んでたよ」
まさか、軍竜を食べるなんて話、今までに聞いた事無いぞ!!?? ここは一体どんな場所なんだ!?
「というより、軍竜って一匹だけじゃないだろう?」
「ああ三匹いたが全部ご馳走になるはずだーよ」
軍部の戦力のはずの軍竜がご馳走?
もしこの場に敵が攻めてきたらどうなるというのだ!?
「軍竜がいなくて敵が攻めてきたらどうやって迎え撃つんだ!?」
「うんにゃー、そんなことありえねーだよ。こんなとこくるやつだれもおらんだーて」
「はぁ?」
「おらここの軍部に昔からおるがー、ここで今までに戦った事なんて一度もないだーよ」
なんというやる気のなさだ、こんなのでもクビにならないほど人手不足なのか。
軍部がこれという事は他の部署も期待できないのだろうなぁ。
私は軍部を離れ、今度は住民課に来てみた。
「何じゃこりゃー!?」
「あー。アンタ誰?」
住民課の連中は仕事中にもかかわらずカードゲームで賭け事をしていた。
しかもなんと室長クラスまでもがカードゲームをしている体たらくである。
「お前たち? 仕事は??」
「あー? 仕事無いから待機してるんですよー」
「まあここ数年仕事らしい仕事無いけどねー」
このバーレンヘイムはあばら家と掘っ立て小屋しかなく不法居住の連中しかほとんどいないので住民課の仕事が殆ど無いらしい。
「オマエラ仕事しろー!!」
「偉そうにいうオマエ誰だよ?」
そういえばまだ私はこのバーレンヘイムで就任挨拶をしていない、そりゃあ名前も顔もわからない部外者としか見えないのも仕方がない。
仕方ない、今晩の就任記念パーティーで私の名前を覚えてもらうしかないな。