116 アリの女王
やたらと口の悪い女王アリが私にすごんできた。
「黙っとらんとなんか言わんかいボケ!!」
「こ、こんにちは」
「いちびっとったらケツの穴から指突っ込んで奥歯ガタガタいわしたろっか!!」
何を言っているかよくわからないが、好意的でないのは間違いない。
「あ、あの……私はバーレンヘイムの執政官『テンタクルス・ネジレジアス』と申します」
「ウチはデザートアントの女王や『アリア・アントシアニン』って知らんか」
「いえ……存じませんね、申し訳ございません」
私が女王アリの名前を知らないというと、女王アリのアリアはガッカリした顔になった。
「なんでや、ウチの知名度ってそんなに少ないんかいっ」
「アリ、アリアリアリア」
「アリアリリアリアリ」
だから兵隊アリが何を言っているかまるで分らない。
「アンタらだけやで、ウチのこときちんとわかってくれるん。おおきにな」
「アリアリ」
「アリアリアリイイ」
だからわかる会話で話してください。
「あの……アリアさん。そろそろこの縄を解いてもらえませんか?」
「イヤや、おまいらは勝手にウチの巣に入ってきた部外者や。家の中に勝手に入ったアホはボテクリまわされてもしゃーないやろが! 自業自得っちゅーやつや」
「助けてほしいのだー、ワシ何も悪くないのだー」
パラケルススがジタバタと暴れていた。
「こらガキ、勝手に動くな」
「あの、一応私これでも執政官なんで……もし不在だとここに軍隊が攻めてくるかもしれませんよ。そうなるとこのアリの巣なんてあっという間に壊滅ですよ」
これは脅しである。
本当に軍を動かすなら、アイガイオン司令官に打診しなくてはいけない。
その上でアイガイオンが軍を動かしてようやく軍勢を出せる形だ。
しかしバーレンヘイムで魔族同士が争っても何の得もない。
ここはアリの女王に交渉をした方が良いだろう。
「ひ、卑怯もん。ウチがそんなんでビビる思とんか! なめとったら痛い目見るで!!」
アリアはけん制しているが、本音は軍隊が攻めて来るかもと聞いて少し怯えている。
「私は貴女方と争うつもりはありませんよ。本当なら知りたい事があってここに来ただけですから」
「まあええやろ。それならこんなんどうや?」
アリアは強そうな兵隊アリを呼んだ。
「こいつん名前はモハメド。蝶のように舞い、蜂のように刺す最強のデザートアントの戦士や。おまいらがモハメドと戦って勝てたら話を聞いたる」
アリなのに蝶? 蜂? 説明が意味不明なのだが。
とにかく強そうな兵隊アリが姿を現した。
「フッフッフー、それならワシのゴーレムくんと勝負なのだー」
パラケルススがゴーレムを呼んだ。
すると、大穴の上からドリルで穴を開けてゴーレムが降りてきた。
「フッフッフー、これがワシのゴーレムくん八号なのだー。スーパーギガンテックドリル・アントニオくんなのだ」
パラケルススの呼んだゴーレムは腕がドリルになった掘削特化型だった。
「ええやろ、ウチの最強のモハメドがそんなヘボのガラクタの鉄くずに負けるわけあらへんからな。いてもたるでー」
「アリッ! アリッ!! アリィィィィイ!!」
モハメドと呼ばれたデザートアントの戦士がウォーミングアップを始めた。
モハメドは武器を持たずに戦うようだ。
「アントニオくん、相手にとって不足はないのだ。思いっきり戦うのだー」
「ガオオオーン!」
私達の知らない間に、女王の間には大量のデザートアント達が集まっていた。
「「「「アリッ! アリッ! アリッ!!」」」」
デザートアント達は、みんなモハメドを応援しているようだ。
ここで負けたらマジで帰る事が出来ないかもしれない。
「もし負けたらウチのガキ共の餌にしたるさかいな」
この対決は絶対に負けるわけにはいかなくった。
パラケルススはそんな危険性を考えずに、簡単に勝てると思っているようだ。
そして、モハメドとゴーレムの対決が始まった。