115 西の砂漠の大アリの巣
パラケルススはゴーレムに投影機能を付ける事で、銀板にそのままの風景を焼き付ける事が出来た。
「やったー、成功なのだー」
なんというか……頑張って触手を増やして遠くの背景を模写していた私はやるせなくなってきた。
「トッテモベンリナキノウデスネ」
「そうなのだ! ワシの発明は凄いのだ」
コイツは皮肉が通用しないタイプだった。
もう何だかアホらしくなってきた私は船の中に戻って休む事にした。
パラケルススはゴーレムに銀板を差し込み、何枚もの風景を取り込んで地図を完成させた。
私達が戻ったころには、もうすっかり日が暮れていた。
流石に銀板に写す投影も夜は使えないようだ。
続きは明日する事になった。
次の日、私は住民課に出向き、昨日のパラケルススのゴーレムが作った投影した地図を住民課の職員に渡した。
住民課の職員は人数が少なく、ここにいないのは私の指示通り不毛な地に行っては未確認の住人を調べる作業をしているらしい。
「とりあえず、ここにあるのは北西地域の地図です。これに今住んでいる十人の登録を私の作ったグラフ用紙に書き込んでください」
「わかりました」
「住民の属性ごとにインクの色を変えてくださいね」
私は職員に昨日の地図を渡すと、また騎竜戦艦に乗り、今度は西の地域を目指した。
西の地域は砂漠地帯だ。
ここも不毛の地と言えるだろう。
その辺りに住むのはサンドワームやサンドベア、デザートアントといったモンスターである。
これらの中で知性があり会話が出来そうなのは、デザートアントの女王アリくらいの物だろう。
まず私達は上空高く騎竜戦艦を飛ばし、ゴーレムの投影能力で砂漠の全体像を写し取った。
そして少し低空にし、砂漠の細分化した地域を投影した。
その作業が終わったのがお昼前だった。
今日の昼は携帯して食べれる物を持ってきた。
これもウー・マイが作ってくれたメニューだ。
小麦を砕いた粉とカトブレパスや黒山羊の乳を合わせ、練って焼いた平たいパンで肉や野菜の棒を巻いたものだ。
ウー・マイはこれの事を振頭と言っていた。
軽く食事を済ませた私達は、砂漠を飛行して大きな穴がある事に気が付いた。
「一旦船を下ろしますよ」
「わかったのだー」
私達は船から下船し、砂漠の大穴に入った。
大穴の中はとても広く、迷子になりそうな場所だった。
「うううー、ワシ迷子になりそうなのだ」
「それなら何か目印を置いて行けばいいじゃないですか」
「それだ、それなのだ。先程のぶりとうってのをちぎって地面に撒いて行くのだ」
パラケルススはドヤ顔でパンの端っこをちぎっては地面に置いて行った。
そしてしばらくした辺りで、やはり迷ってしまった。
「うううー、やはり迷ってしまったのだー。でも大丈夫なのだ、先ほどのちぎったぶりとうを辿れば元の場所に……」
しかしぶりとうの欠片はどこにも見当たらなかった。
「何故なのだー!! ワシの置いたぶりとうの欠片が無いのだー」
パラケルススはもう一度ぶりとうをちぎり、地面に置いて少し歩いた。
そして振り返ると、そこにいたのは人間大サイズのデザートアントだった。
「アリ?? アリアリ?」
パラケルススは涙目になっている。
「ア……ア……アリだー!!!」
そう、ここの大穴はデザートアントの巣だったのだ。
先ほどパラケルススがちぎって置いて行ったぶりとうは全部デザートアントに持って行かれてしまっていたのだ。
「困った事になりましたねー。どうにかここの女王様に話をしないと」
「アリ! アリアリアアリアリ!!!」
私達はアリに持った武器を突き付けられた。
どうやら侵入者とみなされたらしい。
「困りましたね、どこに連れていかれるのでしょうか?」
「アリアリアリリアリ!!」
何を言っているのか全然わからない。
そして私達は兵隊アリに連行され、とても巨大な空洞に連れてこられた。
「ウチの巣に勝手に入ってきたクソボケはおまいらか?」
やたらと口の悪い大きなアリが姿を現した。