113 辛いカレーイと辛くないカレーイ
私は住民課の連中に、住所不定になっている住民を調べに行くように指示をした。
これで連中が出かけている間に何もしなければ私は部下をアゴでこき使うだけのダメ上司と見られてしまう。
彼等彼女等が出かけている間に書類を整理する必要があるだろう。
幸か不幸か、以前山積みになっていた書類はファーフニルやトモエやパラケルススがバカをやったせいでほとんどが粉々の紙屑か消し炭になっていた。
私は真っ白な羊皮紙を大量に用意し、触手を使って大量の線を引いた。
一組の触手には紙のサイズを測らせ、細くした先端で何か所も穴を開けさせた。
別の触手にはインクを付けた紐を両端から引っ張らせて、それを紙に当てることで上下に大量のマス目のある紙を作らせ、数千枚の書類を一瞬で用意した。
これは私が本国の軍務部にいた際に思い付いた方法だ。
武器弾薬や補給用食料を記録する際に紙の中にマス目を作る事で正しい数値を記録できた。
このやり方で計算した事で、その前に軍務部を仕切っていた将軍の不正や着服が発覚したのだ。
それを私は今回住民の把握に使おうというわけだ。
沼や水に関係する場所に住む者達は青いインクで記入。
炎や火山帯に住む者達は赤いインクで記入。
それ以外にも属性や住む場所に合わせてインクの色を変更した。
本人が字が書けなかったり、言葉のしゃべれない魔族や魔獣は代わりに書く事で住民を把握する形にする。
午前中だけで私は数万枚の紙を線引きすることが出来た。
私の触手が使えたから、これだけの短時間で作業が出来たのだろう。
そしてお昼の時間になった。
食堂にはトモエやファーフニル、パラケルススと言ったいつもの面々が既に来ていた。
オクタヴィアも最近は普通に食堂で食事をしているようだ。
「本日のすぺしゃるめにゅーは、カレーイアルね」
今日の食堂の特別メニューは、カレーイという食べ物だった。
しかし見た目はどう見ても、蠅型魔族の好みそうな……なんというか食べ物にはあまり見えない色の液体に肉や野菜が入ってた。
これが本当に美味しいのだろうか?
「カレーイには米と小麦のパンとどっちで食べても合うアルね」
私はどちらもを半分ずつ取る事にした。
カレーイはスプーンで食べるようだ。
私はコメとカレーイを合わせて食べてみた。
「何だこれは! 辛いけど……美味い」
不思議な味だった。
これは見た目の奇妙さとは違い、辛いが美味しい食べ物だった。
パラケルススはどうやらこれが辛いらしく、水をがぶがぶ飲んでいた。
「うへぇー、これ辛いのだー、ワシにはちとキツいのだー」
「そうですか? 拙者はこれよりもっと辛い方が好みですが」
トモエはカレーイにさらにテーブルにあった真っ赤なスパイスをドバドバかけていた。
あの、見ているだけで辛いんで勘弁してください。
しかしカレーイは食堂でも好評らしく、開始から20分で売り切れてしまった。
「カレーイはオシマイアル。辛くないヤツならここに別に作ってるアル」
「ワシそれが食べたいのだー!」
パラケルススはカレーイを残したまま、辛くないカレーイを取りに行った。
「では食べてみるのだー!」
パラケルススが辛くないカレーイを食べた。
「コレめっちゃ美味しいのだー!」
パラケルススが目をシイタケにして喜んでいる。
こう見るとどう見てもお子様にしか見えない。
「テンタンタルスも食べてみるのだ、あーん」
「や、やめてください。人が見ているんですよ」
「ちぇっ、仕方ないから皿に置いてやるのだ」
私はパラケルススが皿に置いた辛くないカレーイというのを食べてみた。
確かにこれは辛くない、でも味はカレーイにも負けないくらい美味しいものだった。
「どーなのだ? 美味しいのか? 美味しくないのか??」
「これは……美味しいですね」
「そーなのだ、コレはワシ気に入ったのだー」
その日食堂でウー・マイがカレーイを出したのが金曜日だったが、かなり大好評だったので金曜日は客の要望でカレーイの日になったようだ。




