111 猫の手も借りたい(数十本)
どうにか皿洗いを覚えたオイオリュカの次の課題は、野菜の下ごしらえだった。
パラケルススの薬で巨大化した野菜は、食肉植物と化しており、かなり狂暴だった。
「うえー、気持ち悪いんですけどー」
「こんなもん慣れたら問題ないアル、ただの食材アル」
ウー・マイはいとも容易く食肉植物の牙の付け根を斬り裂き、口を閉じれなくしてしまった。
「こうなればただの野菜アル。コイツらはアゴを反対に押し切ると簡単に二つに割れるアルね」
オイオリュカはウー・マイの手慣れた手つきをみて感心していた。
「オイオリュカちゃんもやってみるー」
「ふぇ! 気をつけるアル」
オイオリュカは二つの手で食肉野菜の口を掴むと、上に引きちぎった。
「ぬんっ!」
そのパワーは強大で、砕け散った野菜は天井にぶつかり、その後地面に落下した。
「あれーおかしいなー」
おかしいのは貴女の馬鹿ぢからです。
オイオリュカはその後も、野菜を粉々に砕き惨劇を繰り広げていた。
「ハァ、これ全部野菜炒めにするアル」
ウー・マイは当初の予定を変更し、今日の日替わりメニューを野菜炒めにしていた。
砕かれた巨大野菜は粉々になり、普通の野菜サイズになっていた。
「でも。これ使えるかもしれないアル」
ウー・マイはそう言うと厨房の隣の食材置き場の倉庫に行き、ブブカに部屋中の壁を布で覆わせた。
「オイオリュカ、隣の部屋で野菜を小さくするアル」
「わかったよー」
オイオリュカは大量の食肉野菜を抱え、隣の倉庫に向かった。
「遠慮はいらないアル、思いっきり砕いていいアル」
「わかったー、一気に行くよー。いっせーのーでー」
オイオリュカの手が数十本に増えた。
その腕は山盛りになっていた野菜を一瞬で粉々に砕いていた。
「よくやったアル、オイオリュカ。次はその野菜を全部集めるアル」
「うん、集めるよー」
オイオリュカは数十本の腕で一瞬のうちに野菜を全部集めて袋にしまった。
「終わったよー」
「ふぇっ! もう終わったアルか」
オイオリュカが持ってきた袋の中には粉々に砕けた食肉野菜のなれの果てがたくさん入っていた。
「よーし、これで一気に作るアルね」
ウー・マイは手慣れた手つきで野菜を粉みじんに切り、それを一気に炒めて大量の野菜炒めを作り上げた。
「オイオリュカ、皿を用意するアル」
「うん、お皿だねー」
オイオリュカは皿を全部の手に持つと、瞬時にウー・マイに順に手渡した。
「ハイッ ハイッ!! ハイィ―ッッ!!」
野菜炒めが順に規則正しく皿の上に乗せられていく。
全部の野菜炒めが完成したのは昼食のベルのなる少し前だった。
「オイオリュカ、ありがとうアル。猫の手も借りたいほど忙しい状況だったアルね」
「ええー。オイオリュカちゃん猫じゃないよー」
「いや、猫の手も借りたいってのはアルね、とーっても忙しくて猫にすら何かしてもらいたいって状態の事アルね」
オイオリュカがキョトンとした顔をしている。
「そんなに忙しかったのー?」
「そうアル、今日はトーっても忙しかったアル。でもオイオリュカのおかげで時間前に全部の料理を用意出来たアルね」
「そーなんだ、オイオリュカちゃんすごい?」
「ああ凄いアル。その手を便利に使えたら何でもできるアルね」
オイオリュカが嬉しそうだった。
「それじゃあ次はこれ使わせてねー」
オイオリュカは大きなナイフを取り出した。
「そ。それは危険アル! すぐそこに置くアルね!!」
「えー、わかったー」
そういうとオイオリュカはナイフを手で投げ捨てた。
しかしその馬鹿ぢからは、ナイフを高速で投げたのと同じ速さで飛ばしてしまった。
スターン!!
ウー・マイの顔の横数センチの壁に料理用ナイフが深く刺さっていた。
突然飛来したナイフにウー・マイはビビってしまい、その場にへたり込んでしまった。
「ワ……ワタシ今日はもうダメアル。早く帰って寝るアル」
ウー・マイは荷物をまとめると、さっさと早退してしまった。
幸い料理は完成していたので、後はブブカが用意するだけで済んだ。




