109 皿洗いの惨劇
そうして、オイオリュカがウー・マイの弟子になった。
「これからよろしくアル」
「はーい、ウー・マイちゃん、よろしくー」
何というかほわほわした娘だ。
まるで緊張感がない。
「テンタクルス殿、オイオリュカはこう見えてワシの軍団ではトップの強さなので、力加減とか教えてやってくれると助かる」
それって……力が制御できないパワー馬鹿って事じゃないか。
「オイオリュカさんって……どれくらい強いんですか?」
「まあグレーターデーモン程度なら、100匹一瞬で倒せるくらいだな、ワシの若いころには劣るがな、グォワハハハハ」
それ、間違いなく最強クラスなんですが……。
「テンタクルスちゃーん、オイオリュカちゃんの強さ、知りたいのー?」
「い、いえ……遠慮しておきます」
「いーからいーから、どーせ減るもんじゃないしー」
そう言うとオイオリュカは目の前に巨大な岩を持ってきた。
すでに岩というより小さな山クラスのデカさだ。
「これを一瞬で壊してみるねー」
オイオリュカはそう言うと、二本の腕を一瞬で大量に増やした。
「パワー全開ー! いっせーのーでー!!!」
オイオリュカは全部の腕で巨大岩をパンチした。
そのパンチで石は一瞬で全部が粉々に砕け散った。
「どーだー、これがオイオリュカちゃんのパワーだよー」
私は唖然とするしかなかった。
これは下手すればファーフニルやトモエ、エリザベータにリオーネともタメを張れる強さだ。
「ふぇー、これは凄いアル。その腕を使えばすぐに料理覚えれるアルネ」
「ウー・マイちゃん。よろしくー」
そして私達はオイオリュカを預かり、庁舎に戻った。
◇
「ブブカ、新しい弟子が増えたアル、一緒に頑張るアルね」
「了解っすー!」
オイオリュカはまずは皿洗いをすることになった。
「そこの皿を一枚ずつ洗えばいいアル。特に難しいことでも無いアル」
「わかったよー。洗えばいいんだねー」
オイオリュカはまずは二本の腕だけで皿を洗い出した。
パリン。
持った瞬間皿が割れた。
「あれー? おかしいなー」
「ドンマイアル、まだ始まったばかりアル」
だがその後も皿は持つたびに……パリン、パリンと音を立てて割れていた。
「なんでこーなるかなー?」
「力入れすぎアル、もっと触る程度で良いアル」
「わかったー、やってみるよー」
ツルッ、ガシャーン!
今度は持ち方があまく、皿は指から滑り落ちて割れてしまった。
「ごめーん、やっちゃったー」
「仕方ないアル、まだ大丈夫アル」
その後も、ガシャーン、バリーン、クシャッ、ゴシカァン!
皿や調理器具の砕ける音がひっきりなしに続いた。
「なんでこうなるかなー」
「はぁ、仕方ないアル。まあ初日だから大丈夫アル」
それからもオイオリュカは皿を持っては割り、持っては割りを繰り返していた。
皿の破片はブブカが全部集めて捨てていた。
そしてようやく皿を持てたオイオリュカは、今度は洗う布を反対の手で持った。
パリン、バリン、ガシャン、ゴシャ!
今度は水の中で皿がどんどん砕けていた。
「なんでこーなるのかなーかなー」
「はあ、まあ習うより慣れろアル、何枚割ってもいいからとにかく今日は皿を洗う事覚えるアル」
「はーい、がんばりまーす」
オイオリュカはくじけない性格のようだ。
彼女は見た目は可愛らしいのかもしれないが、中身は相当のポンコツである。
その後も皿は何枚も割れては捨てられを繰り返していた。
そしてようやく、一枚の皿を割らずに洗う事が出来た。
「やったー、ついに洗えたよー」
「よくやったアル、今度はその洗った皿を乾いた布で拭くアル」
私は嫌な予感がした。
パリン。
やはり皿は音を立てて粉々に砕けた。
「なんでこーなるのかなー」
貴女今日何回それを言っているんですか??
今度は皿を拭こうとしてオイオリュカは粉々にしてしまった。
「まあ今日は仕方ないアル。もうその辺掃除しいておいてくれアル」
ウー・マイも流石に今日は諦めたようだ。
先はとてつもなく長そうだ。