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107 鬼の目にも涙

 『常勝将軍アイガイオン』


 かつては魔界最強の軍団ラストバタリオンの司令官だった男だ。


 その無数にもある腕と強靭な精神力で、魔界の敵を全てねじ伏せてきた最強の武闘派。

 しかしそのあまりの強靭な精神力の為に部下にもそれを強要しすぎ、耐えきれなくなった将校達にクーデターを起こされ、失脚してこのバーレンヘイムに左遷された。


 その最強と言われたアイガイオンが、たかだか非力な人間の娘に膝をついて敗北を認めたのだ。


「ワシの完敗だ。長年戦場で戦い続けてきたワシが初めて抱いたこの感情。これは一体何なのだ?」

「それが美味しいという気持ち、もっと食べたい、誰かと一緒に食べたいという気持ちアル」


 アイガイオンは涙を流していた。


「ウオオオオオー」

「オッサン泣くなアル。まだ食べるものあるアルね」


 ウー・マイの力は凄いものがある。

 彼女は間違いなく料理の神に選ばれた天才だと言えるだろう。


「ところでオッサン、聞きたい事があるアルね」

「何だ、娘よ」

「その腕でどうやって服とか鎧着るアルか??」

「は??」


 ウー・マイは間違いなく天才だ、だが料理以外は全くのポンコツだ。

 多分これはウー・マイの全てのパラメーターが料理に全振りされているのだろう。


「グオワハハハハハ、ワシにそんな事を聞いてきたのは娘、お前が初めてだぞ」

「ワタシ娘じゃないアル。ウー・マイという名前があるアルね」

「ウー・マイ殿。ワシはお前に敬意を称する」


 あのプライドの高い常勝将軍アイガイオンが、人間の娘に頭を下げていた。


「ウー・マイ殿よ、ワシもお前に聞きたい事がある」

「ふぇ? 何アルか?」

「本当に栄養補給に時間をかければワシの軍はもっと強くなるというのか?」


 ウー・マイは胸を張って答えた。


「その通りアル。崑には昔からたくさんの国があってずっと戦争が続いていたアル。その中でも生き残った国は食べ物を大事にした国アル。どんな軍隊や国でも兵糧攻めには勝てないアル」

「兵糧攻め、それはどのような戦いであるか?」

「兵糧攻めとは……相手にご飯を食べさせない事で敵を弱らせる戦い方アル」


 アイガイオンが焦燥していた。


「なんと卑怯な……それは戦とはいえん……お互い正々堂々と持てる全力を持って相手を叩き潰すのが戦の醍醐味であろう」


 この意見をパラケルススが聞いたら間違いなくバカにするだろう。

 今回連れてこなくて正解だった。


「だから食べ物大事にした国は生き残ってるアル。ワタシはその国の皇帝の専属料理人の特級厨師だったアル」

「うむ、栄養補給にそれ程の意味があったとは……不覚であった」

「オッサン、栄養補給じゃなくて食事、ご飯というアル。その言い方は食べ物に失礼アル」

「そうであったか。わかった、今後はワシも食事を部下にきちんと取らせる事にしよう」


 あれだけ強いアイガイオンが、きちんと部下に食事や休息のバランスを考えるようになれば、バーレンヘイムの軍隊はもっと強くなれるだろう。


「わかったアル。ところで料理の仕方とか知ってるアルか?」

「すまないが、全くわからん」

「はぁ、そんな事だと思ったアル。誰か手先の器用なヤツいないアルか?」

「それならワシの娘がおるが、それでもいいか?」


 そう言うとアイガイオンは誰かを呼んできた。


「ワシの娘のオイオリュカだ。コイツで良ければ鍛えてやってくれ」

「わかったアル。おいおりゅか……さんで良いアルか?」

「はーい、あーしはオイオリュカだよーよろしくー」


 なんだか軽そうなのが出てきたもんだ。


「パパちゃんから聞いたよー、料理ってのがあるとみーんな強くなるんだってねー」

「コラコラ、みんなの前でパパちゃんはよさんかい」


 私は苦笑いするしかなかった。

 あの常勝将軍アイガイオンが娘にタジタジだったのだ。


「アイガイオンの娘、オイオリュカでーす。みなさーん、よろしくお願いしまーす」


 なんだかまた一人、新しいポンコツ娘が増えたようだ。

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