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106 鬼退治には恵方巻

 今回のウー・マイはかなりのブチ切れモードだ。


「あの腕たくさんのオッサン、まるで鬼アル」

「ウー・マイさん? 本当にできるんですか?」

「あそこまで料理人バカにされたらワタシ怒ったアル。ギャフンと言わせてやるアル」


 ウー・マイは何かを考えているようだ。

 砂時計はかなり大きく、大体一時間くらいといったところだろうか。


「あの腕たくさんの鬼オッサンの言ってることを考えると、時間かけずに手間もかけずに戦場で食べれて美味しいものって事になるアル。それだとやる事は一つアルね」


 ウー・マイは何かを思いついたようだ。

 そしてコメを鍋で炊きだした。


「鬼退治ならやはり巻物アル。あの腕たくさんの鬼オッサン、恵方巻でぎゃふんと言わせてやるアル」

「エホウマキ……何ですかそれ?」


 ウー・マイがコメを炊きながら別作業を始めた。


「ブブカ、そこにある物を平たく伸ばすアル、それもアレもこれも平たく伸ばすアル」

「姐さん、わかりましたっす!」


 ブブカは肉や鳥の皮、魚の皮に何やらよくわからない黒い物等をウー・マイの指示通りに力を入れて平たく伸ばしていた。


「よし、もう少しでコメが炊けるアル。そうしたら今度はこの素材を細長く切って並べるアル」


 ウー・マイは平たく伸ばした何かを順番に並べだした。


「もうすぐ砂時計が半分を切るぞ! 戦場では敵は待ってくれんぞ!!」

「わかってるアル、鬼のオッサンは黙ってろアル!!」


 ウー・マイは手慣れた手つきで並べた食べ物に味をつけていた。

 どうやらショーユやミソといった物を使ったらしい。


「よし、ご飯が炊けたアル。ブブカ、そのご飯を平たくそのペッタンコの上に乗せていくアル」

「姐さん、わかったっすー」


 ウー・マイは炊けたコメを平たく伸ばした何かの上に平らに乗せていくと、その上に食材を棒状に並べた。


「よし、これで下準備は完了アル! これで後は巻いていくだけアル」


 ウー・マイが順番に並べた食材を手早く筒状に巻いていた。


「砂時計は後四分の一だ、それまでに作れなければお前の負けだからな、グワハハハ」

「オッサン黙ってろアル。ほえ面かく準備とギャフンという準備してろアル」


 ウー・マイとブブカは力を合わせて100人分のエホウマキを完成させた。


「完成アル! これが鬼退治の恵方巻アル!!」

「ちょうど時間だ、では食べてみようか」


 アイガイオン総司令は軍で筋トレをしていた魔族達を100匹集めた。


「今日の栄養補給は少し変わった物でしてもらおう、まあ時間はこの砂時計が落ちるまでだ」


 アイガイオンは先程よりも10分の一ほどに小さな砂時計を用意した。


「戦場では無駄な行動の時間が命取りになる。この砂時計が落ちるまでに栄養補給のできなかったものは罰が待っているからな!!」

「イエッサー!」


 流石は軍隊だ、統率された動きは一糸の乱れも無い。

 アイガイオンの部下たちは初めて見るエホウマキを食べだした。


「何だ! これは!?」

「栄養補給が、こんなに早くできるなんて」

「これは、いくらでも食べられる!!」


 アイガイオンの部下達は全員が驚いていた。


「な……何だと!? たかだか栄養補給にそんな感情が生まれるなんて……ありえん!!」

「オッサンも食べてみろアル」


 アイガイオンはウー・マイに手渡されたエホウマキを口に入れた。


「!!??? なんだ、この衝撃は! これは今まで戦で感じた事の無い昂揚感だ!!」

「どうアル? 美味いアルか??」

「し……信じられん。たかだか栄養補給の時間を……もっと楽しみたいとワシが感じるなぞ……それに、もっと欲しくなってきたワイ!!」

「どうアル? 負けを認めればもう一本やるアルよ」


 アイガイオンは膝をついた。


「ワシの負けだ。無駄な時間をもっと楽しみたいと感じるとは……」

「それが料理を楽しむ事アル、味を楽しむという事アルね」


 常勝無敗の総司令アイガイオンは、たかだか一人の人間の少女に負けを認めていた。


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