105 脳筋司令官アイガイオン
私は庁舎の休みの日に、ウー・マイとブブカを連れて軍務部の駐屯地に向かった。
「ここはどこアル?」
「ここはバーレンヘイムの軍務部の基地ですよ」
ウー・マイは初めて来た軍務部の駐屯地をキョロキョロと見まわしていた。
辺りには筋トレをしているムキムキの魔族がいた。
こんな場所でも真面目に仕事をしているのか。
そんな私達の前に司令官らしき魔族が姿を現した。
「ようこそお越しくださいました。ワシがバーレンヘイム軍務部総司令のアイガイオンです。よろしくお願いします」
私達を出迎えたのは、腕が何十本もある巨人だった。
「こちらこそよろしく、アイガイオン総司令」
私はアイガイオンの一本の手と握手をしようとしたが、アイガイオンは全部の手で私を握ってこようとした。
仕方ないので私は触手を何十本も伸ばし、その手でアイガイオンの全ての手と握手をした。
どうやらこのアイガイオン、融通が利かないタイプらしい。
「アイガイオン総司令殿、それで……この軍部の食事はどうなっていますか?」
「食事など、時間の無駄である。確実に戦う為のエネルギーが補給できれば味なぞ関係ありませぬ。それを不味いだの味が無いだの……最近の兵士達はまるでなっていない!!」
あ……コイツそういうタイプなのか。
合理主義ではあるが、その際に何が必要かが見えない厄介なタイプだ。
「時間の無駄……と言いましたが、それは何故でしょうか?」
「それは時間の無駄は時間の無駄でしかない、食事を作るやつが一人いればその分一人でも多く兵士を導入すれば数で押し切れる。それをわざわざ非戦闘要員を戦場に連れて行ってどうする? 死ぬだけだぞ」
まあ言わんとする事は分からんではない。
「それとも何か? その食事を作るやつの為に護衛をつけるという人数の無駄を増やそうというのですか? それこそ時間の無駄かと、短期決戦をつければ食事などという事に時間を使う必要は無いのです」
こりゃあダメだ。
なぜバーレンヘイムの軍の士気が低いかの理由が、この短時間でよーく見えたような気がする。
そう思っていたらウー・マイが凄い剣幕でアイガイオンに噛みついた。
「オイこらちょっと待てや、腕たくさんのオッサン! 食事が時間の無駄とはどういう事アルね!!」
「そりゃあ時間の無駄だから時間の無駄と言ったのだが、この女は何なのだ?」
「ワタシは料理人アル、アンタの発言は料理人を侮辱したアル。発言を撤回するアル」
「はっ! 料理人? 食い物なぞそのまま食えばいい、現地調達できない奴は所詮弱い奴だ。その程度の事も出来ずに生き残れるわけがない!」
このアイガイオン、超脳ミソ筋肉バカだ。
今回はパラケルススを連れてこなくて、正解だったかもしれない。
間違いなくアイガイオンはパラケルススのやり方を卑怯だの、正々堂々としていないだのと言って大喧嘩になるのは確実だ。
「そこまで言うならこのワシを料理とやらで打ち負かしてみろ、たかだか食い物でワシを倒せるならな!!」
「望むところアル! 料理人バカにした事、後悔させてやるアル!!」
まあウー・マイのプライド的に毒を使ってアイガイオンを倒そうという事はしないだろう。
しかし、またおかしな事になってきたようだ。
「良いだろう、だがここを戦場だと思え。時間をかけずにワシに料理の素晴らしさを伝える事が出来たなら話を聞いてやろう」
「その発言後悔させてやるアル。ワタシの料理人のプライドかけて勝負してやるアルね!!」
「姐さん、オレっちも手伝うっすー!!!」
なんだかんだで、アイガイオン相手にウー・マイの料理勝負が始まってしまった。
「材料はこの駐屯地にある物なら何でも使って構わんぞ。だが、時間制限は付けさせてもらおう」
そう言うとアイガイオンは巨大な砂時計を用意した。
「この砂が全部落ちるまでに料理を作れ。それでワシを納得させてみろ」
「やってやるアル! 後でほえ面かくなアル!!」
そんなこんなで料理対決が始まってしまった。