101 料理に酒はよく使う
「バッカスさん、こんにちは」
「おう、よう来たのう」
私はまたバッカスさんの住処に来てみた。
建物の中全体から酒の臭いがあちこちに漂っている。
「この前もらったコメってのを使って酒を造ってみたんじゃがのう、丸くて白いコメはどうも酒としてはイマイチでのう……ちと困っとったんじゃい」
私はバッカスの出してきた酒を少し舐めてみた。
米で出来た酒は黄色い色をしていて少し今までの物とは違った。
舐めてみたが、確かにこれはとても甘い。
こんな物を飲んだら悪酔いしそうな味だろう。
「オイもこれはちと飲む気になれんので、これどうにか持って帰ってくれんかのう?」
「はい、ではこちらで処分する為に引き取ります」
まあ何かを作る際に失敗作は仕方ない。
これは私達で処分する事にしよう。
「それで、今後の話なんですが」
「おう、何じゃい」
「トモエさんの実家からのコメやダイズはもう終わってしまいますので、今後はまたあの巨大な奴で……作ってもらえますか?」
魔神バッカスが笑っていた。
「グハハハハッアレか。アレならも~っとたくさんの酒が造れるからむしろ大歓迎じゃい!」
「本当か! ワシまた頑張ってでっかいのを作ってくるのだー!!」
パラケルススがまた、目をシイタケの様にして張り切っていた。
まあやりすぎて、自滅だけしないようにしてください。
「ではまた酒の材料を持ってきますね」
「オウ、また来いや。待っとるでの」
私達は使い物にならない黄色い甘い酒とショーユを持って庁舎に戻ってきた。
◇
「てんたくるすのオッサン。それ何アルか?」
「あ、ウー・マイさん。これは……使い物にならなくて捨てる予定の酒です。あとはショーユ」
「それすぐワタシに渡すアル!!」
ウー・マイがすごい迫力で私達に迫ってきた。
あの、少し近すぎるんですが。
「ど、どうぞ」
「うむ、それを寄こすアル」
ウー・マイが黄色い甘い酒とショーユを舐めていた。
「これ捨てるなんてアホのする事アル!! これ極上のミリンアルね!!」
「ミリン?? 何ですかそれ?」
「ミリンは東方の国で作られた甘い調味料アルね。酒作る際の変わり種を料理に使ったらメチャ美味いのが作れるようになったものアルね」
どうやらこのミリンというものはショーユと同じ調味料として使うものらしい。
「ワタシに任せるアルね。今日の料理でこのミリンとショーユを使った美味い物食わせてやるアルね」
「え、ええ。是非ともお願いします」
◇
そしてお昼になった。
食堂はいつものように大盛況である。
前回の争奪戦の料理は少し落ち着いたようで、全体が普通に食べる事が出来ていた。
「今日のすぺしゃる料理。『人面魚の照り焼き』と『食肉野菜の煮込み』アル」
今日の限定料理は、人面魚を焼いた物らしい。
だが、普段見かける塩焼きとは全く違った何やら光沢のある焼き魚が出てきた。
「これは……一体」
「これがミリンとショーユとヘルホーネットの蜜で作った照り焼きアル。あったかいうちに食べるアル」
人面魚は普通に安い食材だ。
しかしその肉は生臭く、不味い物の定番と言える。
それをウー・マイは見事な料理法でとても美味い料理に仕上げた。
「これは! これは美味しいです!」
「なんだか甘いのだ、でも美味しいのだ」
「これは……実家の焼き魚の調理法に似ておりますが、これ程黄金色の魚は拙者も初めてでござる」
みんなが人面魚の照り焼きを美味しそうに食べていた。
では食肉野菜も食べてみるか。
「これは柔らかい。そして噛めば甘みが口に広がる!」
「ワシあまり野菜好きじゃないが、これは美味いのだ」
「味が五臓六腑に染み渡ります」
今日の料理は今までの物とは全く別物の美味しさだ。
料理に酒を使うとこれほどの物になるのか。
そして、やはり今日も……新作メニューを巡る醜い争奪戦が食堂で繰り広げられることになっていた。