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[前編]

「今日こそ、今日こそあの元平民に嫌がらせをしてみせるわっ!」


「…」


ラテはしがない公爵令嬢である。

どこにでもいるような悪役令嬢である。

()()


「もうやめたら?嫌がらせしようとすることが間違いなのよ。」


「だって!フリート様の婚約者は(わたくし)なのに、あの、元平民、エマさんは私の婚約者にべったりなのよ!淑女としていかがなものか!」


「あなたもどうかと思うけれど。」


元平民、エマ・ラベル。彼女が平民から貴族へと成り上がり、このリンドル学園へと入学したのは、有名である。


リンドル学園は貴族だけが通う学校であり、婚約者以外の異性と関わることはなるべくしてはいけない行為である。


「ねえ、ラテ。嫌がらせをするんじゃなくて、口できちんと説明したらどう?」


「説明したわよ。何回も。でもエマさん、脳内お花畑なんですもの。」


「その話、詳しく聞かせてよ。なんだかんだラテの話面白いし。」



なんだかんだ言いつつもいつもラテと仲良くしているマリアはニヤニヤしながらラテの話を楽しそうに聞き始めた。


***


あれは桜がまだ咲いている時期で。


婚約者のフリート様と私は、順調に愛を育むはず()()()


クラスさえ同じならば。


「ラテ。クラス離れてしまったけど大丈夫?」


「そ、そんなあ。」


「毎日、一緒に帰ろうね」


「えっ、いいんですか!フリート様お忙しいのでは?」


「なんとかするよ。」


私と私の婚約者、フリート・ロベルズ様は幼い頃に婚約が決まって毎日のように庭で2人で走ったり、芝生で寝転んだり、やんちゃしていた。

歳を重ねるうちに性格が落ち着いていきはしたが、

私たちはお互いを好き合っていた。

学校へ通ったとしても、変わることはないと、信じていた。


クラスが変わって数日が経った頃、フリート様の横には見知らぬ女性がぴったりとくっついていた。


「フリート様、最近、一緒にいる女性はどなたですか?」


「ああ。エマ・ラベルさんのこと?元平民だから、貴族の決まりを教えろって先生が言ってたから仕方なく。」


「本当に仕方なくなんですね?」


「うん。」


そこにはニッコニコのフリート様が。

怪しくて仕方がなかったけれど先生に言われたなら仕方ないと思いながらも、私は念のため、

エマさん本人にも伝えることにした。


「エマ・ラベルさん。私、隣のクラスの、ラテ・ティードルと申します。」


「?

私に何か用事ですか?」


「突然ですが、エマ・ラベルさんには婚約者はいらっしゃいますか?」


「いませんけど?」


「では、フリート様に婚約者がいることはご存知ですか?」


「リタ様に?勿論知ってますけど…」


私すら呼んだことがないのに、エマさんはフリート様のことを愛称である()()様と既に呼んでいた。

それに加えて婚約者がいることも知っていた。

毎日フリート様の腕に手を絡ませておきながら。


「エマ・ラベルさん。本来、婚約者がいる異性の方とお話することは許される行為ではありません。今一度、あなたの行動がどうなるか責任を持ってください。」


「?

分かりました!」


一瞬自分のしていることが悪いことだと理解できないのか頭に(はてな)マークを浮かべつつエマさんは了承した。


それからの彼女の行動は変わることはなかった。


***


「だから私、何回か教えたのです。でも聞いてくれない!」


「思ってたより酷いわね、エマ・ラベルさん。」


「口で伝えるのが駄目なら、嫌がらせしかないじゃない?」


ラテは少しアホである。


「他に絶対何か方法があるはずよ、嫌がらせなんて、あなたの婚約者にまで伝わってしまうわよ。

それで婚約破棄なんてされたら元も子もないじゃない。」


そんなことはラテは分かっている。

それでも、エマが理解するのに最適なやり方なのだ。


***


マリアと別れ、新たな嫌がらせを考えながら、

ラテは歩いている。


真後ろに自分の婚約者がいることすら気づかずに。


「やぁ、ラテ。」


「!?」


「考えごと?」


「な、なんでもありませんわ」


「フッ…」


「な、なんで笑うんですの!」


「ごめんごめん、気にしないで。

あ、そういえば、今日、少し遅くなるから先に帰ってていいよ。」


「あ、はい…」


「じゃあまた明日。」


(今日も、少ししか話せなかったわ…

この頃忙しそうですものね。)


フリートと別れた後しばらくしてラテの頭に一つの嫌がらせがよぎる。


(そうだわ!エマさんに一緒に帰ろうと誘って荷物持ちさせましょう!!パシるのよ!)


ぐっと拳を作り令嬢らしからない姿のラテはやる気満々だった。

その時までは。



***



「…どうしましょ。」

(荷物が重すぎて、エマさん先に帰ってしまったわ…)




事の発端は少しでも荷物を重くして、ラテとその周辺の人と二度と関わりたくないと、思ってもらうために、わざわざ本を下町まで買いに行き分厚すぎる本たちを沢山鞄にいれ学校まで戻るときだった。


歩くのがやっとの重すぎる本たちを学校まで運ぶのに2時間かかってしまい、ラテが学校へ着く頃には、エマはすでに帰宅していた。


(ダッシュで下町まで行ったのに、重すぎて学校へ行くまで時間かかり過ぎてしまったわ。)


ラテはいつも、フリートの馬車に乗って帰宅しているため、自分の家の馬車は学校まで来なかった。


フリートがいない時の帰り方は徒歩しかない。


フリートはそのことを忘れているのか否か。


「荷物が重すぎて帰れないわ…」


ラテたちの通うリンドル学園は荷物の置きっぱなしは禁止で、置き勉なども禁止である。

だからラテは今持っている荷物を徒歩で持って帰るしか方法がない今の状況にとても焦っていた。


「か!え!れ!な!い!わ!」


教室で1人荷物を抱えたまま叫んでも誰もいない。


「何故、私はいつもこうなの…。」


ラテがエマに嫌がらせをしようとしていたのは今回だけではない。


・・・


初めて嫌がらせをしようとしたのは、

桜が散り終わった頃。

桜の花びらが沢山、床に散らばっていたから掃除をさせようとしていた。

だけど、箒を持っている姿を教師と、フリートに見られ、


「ラテ嬢は、優しいんだな。良かったな、フリート。お前の婚約者が心優しくて。」


「はい。」


そんなことを大好きなフリートに言われれば、

押し付けにくくもなり、結局自分で全て掃除をした。


思っていたよりも桜の花びらは沢山散っていて、ラテは春なのに汗だくのボサボサになっていた。


その姿をフリートに見られた後は疲れているのにも関わらず一人で先に家へとダッシュで逃げたものだ。


・・・


次に嫌がらせをしようとしたのは梅雨の雨の日だった。


エマは傘を忘れ、帰りの馬車が待つ所まで行けないでいた。


ラテはエマの前で傘を広げて傘を持っていることを自慢しようとした。


わざとらしくやるために傘を思いっきり広げた。

思いっきり広げすぎて傘は勢いよく目の前で壊れた。


おまけにエマは思い出したかのように傘を鞄から取り出していた。

忘れていなかったのだ。


ラテのことなど見向きもせずに、エマは先に帰っていった。

残されたラテは雨にうたれながらフリートの馬車まで行ったが、フリートの家の馬車に、濡れた自分が座ったら汚れると事情を説明し、フリートが説得するのも聞かず、雨にうたれながら家までダッシュで逃げた。


おかげで次の日は、熱をだした。


・・・



それからも、何度か嫌がらせをしようとした。


水をぶっかけようと水道を捻り、近くにいたエマにかけようとしたら、勢いよく捻りすぎて自分に降りかかったり、


階段から突き落とすという単純だけど過激なこともしようとした。

さすがに、階段から突き落とすのは痛そうなので下から5段目の所らへんで押した。

だけど押すことだけを考えすぎて、自分がどの位置で押すかどうかまで頭が回らなかったラテは下から押した。

下から押したら上に上がるしかないため、当然、エマは落ちない。

だがしかし、下側だったラテは勢いよく押したせいで自分から階段下の地面へと落下していった。

下から5段目の位置だったこともあり、怪我はかすり傷で済んだが、フリートにはものすごく心配された。


それがきっかけで危ないことは避けるようになったが、肝心のエマのフリートへの接触は何も変わらないし、ラテからエマへの嫌がらせも

()()()()()()()()()()()()()()




・・・


(帰りましょう。)


ラテは諦めて、荷物を持ち帰ることにした。

よいしょとやや引きずりつつも、歩きかけたそのとき。


「リタ様はラテさんのこと好きですか?」


エマの声が廊下から響いていた。

ラテは今、自分のクラスにいた。


エマとフリートは隣のクラスなので、今ラテがいる教室には入らないとすぐに理解したラテは閉まっているドアのすぐ側で見えないようにしゃがんだ。


聞こえるのは、自分の吐息と、エマとフリートの声と時計の音だった。


「ん?」


「ん、もう!聞いてなかったんですか?

だから、リタ様は、ラテさんのこと好きなんですか?」


「ううん。」


ラテには自分の頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。


(…フリート様はもうとっくに私のことなんて好きじゃなかったんだわ。)


2人の声はそれ以上何も入ってこなかった。

やがてラテのすすり泣く声と時計の音だけが1人きりの教室に残ったのだった。


***


「…帰らなくてはいけないわね。」


しばらくしてラテは重い荷物を再び抱え、とぼとぼと歩き出した。

校門前まで着くと一つの馬車の扉がラテの目の前で開いた。


「ラテ。まだ帰っていなかったんだね。良かったら送っていくよ。」


先程の会話を聞かれていたとはつゆ知らずラテに声をかけたのは、

()()婚約者である、フリートだった。


ラテは乾いた笑みを浮かべ、

「ありがとうございます」とだけ言った。


馬車の中でそれ以上2人が話すことはなかった。









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