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銀の狼

「戻ったぞ、状況はどうだ?」


「お父さんっ!おかえりなさい、こっちは変わりないよ。

 まだ動く様子はないみたい。

 お父さんは、テイム上手くいった?」


「ああ、フェーンのおかげでスムーズに出来たよ。

来い、クロコ!」


 俺が呼びかけると、影からするりと現れるシェイドフォックスのクロコ。契約時に少し大きくなり、より強そうになっている。

 しかし、クロコの特筆すべき点は強さよりも、その隠密性にある。影に潜み偵察することが可能だし、影から奇襲することも可能だ。


 さらに、契約時に俺を通してフェーンに繋がったことでフェーンも一緒に影に潜ることが可能になっていた。

 俺も一緒に潜ることが可能であるが、人間の知覚では影の中で彷徨う可能性があるので止めておけと言われた。

 うーん、残念。しかし、危ない真似をしている場合じゃないから、今は諦めておこう。


『ただでさえ魔法やスキルに慣れていない者が、高等なスキルを直ぐに扱えると思うな。中で身動き出来なくなれば、死ぬぞ?』


 そこまで危険なのかよ。

 そう考えると、クロコもかなり優秀なんだな。俺の従魔になってくれてありがとうな。


「わぁ、真っ黒なキツネ?

 触って平気かな?」


「ああ、元は危険な魔物だけど、俺の従魔になったから触っても平気だぞ」


 本来ならクレスと同格な魔物だ。普通ならこんな風に触ることも出来ないだろうな。そういう意味では、テイマーって色々な生き物と触れ合うことが出来るから面白いな。


 それに、こうしてふわふわの動物に触れ合うクレスを眺められるのもこのスキルがあるお陰だ。うんうん、ほっこりするなぁ。


「お前はクロコって言うのね?

 よしよし、エースと仲良くするんだよ」


 クレスが優しく撫でると、ケーーーンと鳴くクロコ。

 流石のエースも警戒して近づかないでいたが、その様子を見て近づいてきた。

 白いエースと黒いクロコが並ぶと見栄えるな。


『エースも少しづつ強くなっているんだよねぇ。

 僕とウードが契約したせいか、ゴブリンくらいなら普通に勝てるくらいなんだ』


「それって、普通の狼に可能なのか?」


『さぁ、どうなんだろうね。群れでなら戦うとかあるとおもうけど普通は勝てないんじゃないかな?

 でもエースは、狼の中でも希少な白狼だし元々素質あるんじゃないかな?』


 俺の相棒だったキッドの息子であるエースが、希少な狼だとは思ってなかったな。確かに普通の狼は茶色がほとんどだ。

 白い狼は滅多に見かけないほど珍しく、キッドに出会ったのだって偶然だった。まだ幼かったキッドが怪我していたのを見つけ、保護したのがきっかけ。怪我が治ってから森に帰したのに、その後は兎やら川魚なんかをお土産に持ってきたりと家に通うようになり、いつの間にか俺と一緒に暮らすようになったのだった。


 そしていつの間にか嫁さん連れてきて、出来たのがエースだ。嫁さんも白狼だったから、エースも純血の白狼ということだ。


『元々、白狼って僕の眷属の子孫だからね。

 すっかり神力を失ってるみたいだけど、ボクの神力を与えればそこそこ強くなるかも?』


「ちなみに神力を与えると具体的にどうなるんだ?」


『魔力を扱えるようになるから、僕の眷属のように魔力を扱えるようになるんだ。だから、基本的な肉体強化の魔法なら使えるようになるよ!

 オークくらいなら、一噛みさ』


 なんだって?!

 それだと、俺よりも強くなるってことじゃないか。そうなったらどっちが主人なのかわからなくなりそうだな。だけど、スタンピードが起こっている現状だと四の五の言っている場合じゃない。むしろ戦力が増えると考えれば願ったりかなったりの状況だ。


「それなら、ぜひお願い出来ないか?

 今は少しでも戦力を増やしたい」


『うん、分かったよ。ウードならそう言うと思ったさ。

 じゃあ、いくよ?

 獣の王たる炎嵐のフェーンが白狼エースに眷属たる証、神獣の力を与える。

 汝は、我が化身たる器。その身に宿しは我が魂。そのチカラを以て我の真なる眷属となれ!!』


 最初は、いつも通りのふんわりした話し方をしていたのに、白い光を纏った瞬間から口調が荘厳なものに変わる。あれが神力だろうか。普段のフェーンからは感じられない、強烈な威圧感を放っている。


 フェーンが纏った光がエースに降り注ぐ。

 次の瞬間に、エースの体に変化が訪れた。


 白い体毛が光り、銀色に近い色に変化する。さらに体がかなり大きくなり大人一人が乗っても平気なほど立派な体躯となった。


「凄い綺麗……。まるでおとぎ話に出てくる、女神様に使える銀の狼のようね」


 思わずマリアが息が漏れるようにそう呟いた。

 クレスもその様子を、目を輝かせて見ている。


「へぇ、これでエースも単なる馬車を見守る番犬だけってわけじゃなくなったわけだね。

 ちょっとズルい気もするけど、より頼りになって嬉しいね」


 レイラもその様子を見て、面白そうに言った。その表情はどこか嬉しさすら感じているみたいだな。


「エースも、私と同じ銀色の魔力を手に入れたんだね。ふふっ、お揃いだね!」


 クレスは嬉しそうにエースを撫ででやる。エースも気持ちよさそうに目をつぶる。

 しかし、次の瞬間には目を見開いて鼻先をクレスのお腹に押し付けたかと思うと、ひょいっと空に放り投げた。


「うひゃあぁっ?!」


 咄嗟のことで空中でわたわたするクレスだが、エースは難なく背中で受け止めてクレスを乗せる。

 そして、大きく遠吠えするのだった。


 ウウォオオオオオオオオオン!!


 平原中に響き渡るエースの遠吠え。さすがにこれは魔物たちも気が付いたようだ。一斉に視線がこちらに集まる。

 視線の先には銀色の光を放つ一匹の狼。そして、その背中に乗るクレスだ。


「こらエースなんてことを!」


『どうやら、エースはクレスと共に囮をするつもりみたいだね。

 それならウードはクロコを使って、奴らの背後から奇襲を仕掛けよう。ボクらもその混乱に乗じて一気に殲滅するから』


「なるほど、そういう作戦で行くのね?

 じゃあ、わたしも闇夜に紛れて空から一匹づつ倒していくわ。ここはさっさと終わらせましょうねマスター」


「なるほど、混乱していれば相手も組織的な動きも出来ないか。それなら一対一、いやそれよりも楽に倒せるか。よし、みんな準備はいいな?

 やるぞ!」


「「おー!」」


 こうして、フェーンの遠吠えと共に戦いの火ぶたが落とされたのだった。

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