獣の王と影の獣
「冒険者ギルドに報告して来たよ。
そこで新しい事実が判明したんだ。この平原にいる魔物たちは他にも現れていて、ここにいるのはほんの一部らしい」
「あの数で一部ですか?
・・・・・・もしや、モンスタースタンピード?」
「それってなんだい、マリア?」
「もうレイラ、学校で習ったじゃない。数十年に一度、魔物の集団が一斉に人々の住む場所へ現れて襲いかかってくる災害のことよ」
「ああー!
なんか授業でやってたね。
でも、前に起きたのって百年前くらいじゃなかった?」
「うん、確かそうね。
そうだとするなら、確かにこの量だと少なすぎるよね」
「ああ、そうなんた。ギルドマスターの話では少なくとも1000体はいることが確認されている。
だから援軍が来るまでに、なるべく数を減らしておかないとだな」
「ええっ?! そんなにいるの?」
あまりの数の多さに驚きの声を上げるレイラ。
流石のクレスも声が出ないほど驚いているように見える。
ん、いや何かを真剣に考えているようだな。何か気になることがあるんだろうか?
「クレス、何が気になるんだ?」
「え? うん、それだけいるなら早く戦った方がいいなと思って。だから、どうやったら効率良く戦えるかなって考えていたの」
こんな状況で、そんなことを冷静に考えれるとは流石は俺の娘だ。顔に似合わず豪胆だな。
しかし、いくらクレスたちが強くてもこの暗闇では思うように戦えないかもしれない。
何かサポートしてやれないだろうか?
『ウードよ、この付近には夜目が効く魔獣がいるようだぞ。あれを使役したらどうだ?』
『うんうん、あれはシェイドフォックス。影に潜むことも出来るし、斥候には最適かもね』
シェイドフォックスとは、キツネの姿をした魔獣だ。全身が濃い灰色で常に煙のように溢れる魔力を纏っている。その魔力で全身を覆い隠し、闇夜に紛れることが出来るのだ。
毒を含んだ牙を持ち、相手を数秒で麻痺させたあとに喉を食い破り獲物を仕留める何とも恐ろしい魔獣なのである。
その特殊性と獰猛さで、単体で脅威度C。群れで行動している場合は脅威度Bと判定される。
平原にたむろっているホブゴブリンやハイオークよりも脅威度が高いのだ。俺なんかが近づくのは自殺行為に思えるのだが・・・・・・。
「あっという間に俺食われないか?」
『お主一人で行けば抵抗も出来ずに、食い殺されて終わりであろうな。だが、お主に付き従うのはこの世界に数体しかおらぬ神獣なのだぞ?』
「お前たちがいれば、なんとかなるということか?」
『うんうん。幸いなことに僕の魔力が結構溜まっているから少しだけなら本来の姿になれるよ』
「あら、私もまだ余裕はあるのだけど・・・・・・。そうね、四肢を持つ魔獣にはフェーンが一番相性がいいわね。
私だと、ついついパクッと食べちゃうから」
と、ニヤリと笑うリーヴァは冗談を言っているように聞こえない。うーん、彼女にとってはランクCの魔獣でもおやつにしかならないということか。
『さて、時間が無いぞウード。
まずはフェーンと共に魔物たちとは反対側の林に入り、シェイドフォックスを見つけ出すのだ。
大体の位置は我がフェーンに伝える。
遭遇したら、『神降ろし』でフェーンと入れ替わり屈服させた後に『調教』スキルで服従させるのだ!』
「・・・・・・分かった。やるしか無いんだろう?
フェーン、頼んだぞ?」
ヘルメスを肩に乗せて、杖を持ってフェーンに跨る。
『じゃあ、いくよー!
ヘルメス、先導よろしくー』
フェーンはそういうと、風のように走り出した。
景色があっという間に流れていき、気がつくと既に木々に囲まれていた。
そこからヘルメスが指示のだす方向に足音を立てずにするりと移動をするフェーン。それに跨る俺は、緊張のためかじわりと額に汗を浮かべる。
情けない話だが、自分の実力ではランクC魔獣とまともに対峙して勝てる気がしない。せいぜい足止めするのが関の山だ。
そんな俺がテイムをするなんて、かなり厳しいだろう。
ヘルメスとフェーンには勝算があるみたいだが、一体なにがあるというのだろう?
『見つけたぞ、我の目なら一目瞭然だな。
さぁ、フェーンよ。その威厳を奴らに見せつけてやれ』
『ふふ、これやるの数百年ぶりだね。
ウードは、耳を塞いでいてね?』
そう言うと、すうーっと息を吸い込み、そして辺りが振動するほどの『咆哮』を放った。
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォンッ!!!
慌てて耳を塞いだが、この咆哮がどれだけ凄まじいか肌にビリビリと伝わることで分かった。辺りに潜んでいた鳥やウサギなどの小動物は気絶して地面に倒れている。
そして、肝心のシェイドフォックスはというと、この衝撃に必死に耐えているようだな。
数は三頭。その中でも一回り大きいのがまだ耐えてこちらを睨みつけている。あいつは群れのリーダーかな。纏う影も一際黒い。
『獣の王たる、炎嵐の神獣フェーンが命ずる。
その場に伏せて、服従せよ!!』
フェーンがそう言葉を発した瞬間に、辺りがシーンと静まり返る。よく見ると、その場にいたシェイドフォックスは顔をすり付けるくらい地面に顔を伏せている。それだけでなく、あちこちにいた動物たちも息を殺して服従のポーズをとっていた。
なんだこの光景?!
『これがフェーンの生まれ持ったチカラ。
『獣の王威』だ。フェーンより魔力の低い獣は抗うことも出来ずに、地面にひれ伏すなのだ』
なんというか反則的なチカラだな。
今までなんで使ってなかったんだ?
『これ使うには、結構な魔力溜めないと駄目なんだよ~。
でも今の魔力なら、この数でも問題ないかな。
さぁ、早く契約しちゃいなよウード』
「分かった、ありがとうフェーン」
そう言って、シェイドフォックスに近づいていく。
俺が近づいても全く動く気配はないみたいだ。
これなら大丈夫そうだな。
俺は手のひらに魔力を込めて、そっとリーダ格のシェイドフォックスの頭に手を置いた。
「俺に従い、我が下僕となれ。
『調教』!!」
カッとシェイドフォックスが光ると、体毛が先程より濃い黒に変化し、体が一回り大きくなった。
更に驚くことに、まだテイムしていない個体も俺に従うようになっていた。
『群れのリーダーと契約すると、そのままその群れがウードの下僕になるんだよ。
上下関係がハッキリしない個体の場合は関係ないけど、今回のように明らかにリーダー格がいる場合はまとめて手に入るから楽だよね~』
なんだか凄いことを軽い感じで言っているが、フェーンはいつもこんな感じなので気にしないことにしよう。とにかく、目的は達成したのだから、さっさと戻ろう。
『あ、そうだ。下僕にしたらちゃんと名前を付けないとね。
オルカ達のときは代理だったから必要無かったけど、この子達の親は、ウード君だからね?』
「いきなり名前と言われてもなぁ。
黒い・・・・・・狐か。
じゃあ、クロコかな?」
『なんとも安直な。しかし、名は体を表すという。
『クロコ』よ、しっかりと役割を果たすのだぞ?』
ケーーーンと鳴き、ヘルメスの声に反応するクロコたち。あれ、俺が主人だよな?
とにかく、俺は新しい従魔を仲間に向かい入れたのだった。
「よし、急いで戻ろう!」




