緊急討伐依頼
「やはり、報告は正しかったのか!」
俺たちからの報告を受けて、冒険者ギルドマスターは驚きの声を上げる。
それよりも驚いたのは、ルーブの冒険者が異変に気がついていた事だ。
これなら、すんなり援軍が送って貰えそうだ。
「それで、そっちで掴んでいる情報はどんな内容なんだ?」
「上がっている情報では、既に数箇所の村がやられて壊滅している。
なんとか生き残った冒険者や兵士が、報告してくれた内容だけでもかなり甚大な被害が出ているみたいだ」
「なっ、そんなになのか?!
こんなこと、こっちの大陸ではよくあるのか?」
「馬鹿言うな、こんな大規模な魔物からの襲撃がそうそう起こってたまるかよ!
正確なことは言えないが、もしかしたら『スタンピード』が起こっている可能性がある」
「スタンピード?」
「ああ、何かのきっかけで魔物が大量発生する魔物災害のことだ。
前に発生したのは、俺が生まれるかなり前だから百年ぶりなんじゃないか?」
「そんな……」
「お前たちが見たのは200体くらいの部隊だったな。その数なら、先行部隊かもしれない。
これから冒険者ギルドより『緊急討伐依頼』を出す。
ウード、お前は先に戻って護国竜様と一緒に先行部隊を叩いて貰えないか?」
「俺たちだけで抑えろと言うのか?」
「勿論、直ぐに応援を向かわせる。
王国に連絡するから、あちらからも騎士団を送ってくるはずだ。なんとかそれまでは、溢れださないように頑張ってくれ!」
「何日耐えればいい?」
「二日だ。二日あれば長期戦に備えた物資を運ぶことが出来る。行けるか?」
「やるしかないんだろ?
大丈夫さ、俺には頼りになる相棒たちと娘たちがいるからな!」
『お主が倒れてしまえば、我らもチカラを失うのだ。
決して油断するでないぞ?』
「ああ、分かってるさ」
『そう言って、いつもお主は……』
その後もずっとヘルメスの小言は続いたが、あえてスルーした。ヘルメスの小言も、すっかり聞き慣れてしまったな。
ギルドマスターに連れられて、冒険者ギルドのロビーに移動する。既に多くの冒険者が集まっており、ガヤガヤと騒がしくなっている。しかし、ギルドマスターがロビーに現れた途端に、あたりはシーンと静まり返った。
皆が彼が発するであろう言葉に息を飲み込み待ち構えている。
「皆よく集まってくれた。話は大体聞いているな?」
そう言ってからギルドマスターが見渡すと、皆が一様に頷いている。そして彼らの視線の先で、俺たちを捉えている。
「よし。簡単に説明だけする。
現在『スタンピード』と思われる大規模な魔物災害が発生している。
敵の数は不明であるが、各地から上がってきている情報をまとめたところ、おおよそ1000体。そこには上位種も混ざっている。
ルーブの冒険者にはやわな者はいないと思うが、事態は思ったよりも深刻化している。
迅速に対応するため、全ての冒険者に対してクエストを発行する!!」
ここで大きなどよめきが起こった。
なんだ、凄いことなのか?
『普通の依頼は受けれる人数が決まっているのだ。
そうしないと、依頼者が大赤字になるだろう?
だから、これは採算を度外視してでも成し遂げなければならないほどの案件ということだ』
なるほど、それほど危険な状況というわけか。というか、流石は神獣ヘルメスだな状況の把握が早い。
それなら早く戻りクレスたちに伝えなければな。
あそこだけで200体もいるから、無茶はしていないと思うけど戦い始めてしまえば止められない。
「この未曾有の危機は全ての冒険者が立ち向かわねばならない!
しかし喜べ。お前たちは英雄となれる。
なぜなら、幸運なことに我らには元に護国竜様が現れたからだ!
さぁ共に戦い、新たな伝説に自らの名前を刻め!
この戦いは絶対に勝利するぞ!!」
ギルドマスターがそう煽り立てると、冒険者から『うおおおおおおっ!!』と鬨の声が上がる。
あの男は中々の役者だな。見事に全員をやる気にさせたぞ。
「ウード。頼んだぞ?
お前とリーヴァ様の活躍にこの町の運命が掛かっている。
俺らが到着するまで、耐えきってくれ」
「ああ、なんとか耐えきってみせるさ」
「よし、ではあちらで会おう。
クエスト書はこれだ。じゃあ、頼んだぞ!」
俺たちは優先してクエスト発行してもらったようだ。
まぁ、実際は押し付けるように渡されて、追い出されるかのように送り出されたのだけどね。
「よし、リーヴァ。クレスたちが心配だ。
急いで戻ってくれ」
「はーい、分かったわマスター。
それじゃ、特急で戻るわねー?」
「おう、頼んだぞぉぉおおおおおっ?!」
俺が言うが早いか、俺を乗せたリーヴァはふわりと浮き上がると全速力でクレスたちが待つ平原へ飛び立つのであった。
──それから約5時間後。
そのままでは窒息死するので、ヘルメスには風魔法で障壁を作ってもらった。
おかげで快適な空の旅になったわけだが、当たりはすっかり夜になっていた。
夜闇で視界が悪くなっているが、ヘルメスの『神の目』で地形を把握しながら正確に戻ってこれた。
空からだと、地平にはいくつもの灯りが点っているのがハッキリと見える。クレスたちは用心して灯りは最小限にしているみたいなので、あれは魔物たちの焚き火やたいまつだろう。
「自分たちの存在を隠そうとしないんだな」
『所詮は魔物なのだ。それに、奴らは自分たちが捕食者だと思っている。恐れるものなど、ないのだろう』
実際ここまでは襲う側であり、奴らを見た人間たちは逃げ惑うだけだったに違いない。
魔物とは、それだけで強者であるからだ。普通の人間には敵う術はないのだ。
それを才能と努力で超える存在が冒険者たちなのだ。だからこそ、憧れであり尊敬の対象となる。そんな冒険者に若い頃の俺は憧れていた時もあった。
才能なしと言われた俺は一度は諦めたが、ヘルメスと出会ったおかげでフェーンやリーヴァも仲間になり冒険者として一人前と認められたのだ。
だからこそ、ここで少しは活躍しておかないとな。
「あ、お父さんたちが帰ってきたよ!」
「月明かりがあるとはいえ、良くこんな夜に見えるねクレス」
「確かに、あの飛んでいるのはリーヴァですね。
本当に一日で帰ってくるなんて、どうやったら出来るのかしら?」
下を見るとクレスたちがそこから手を振るのが見えた。
「リーヴァ、あそこに降ろしてくれ」
「分かったわ、マスター。私は上空で待機するから何時でも指示を出して!」
「了解だ!」
静かにクレスたちの近くに降りて合流した。
クレスたちも、俺の元に駆け寄る。
「お父さん、どうだった?」
「ああ、実はな・・・・・・」
そして俺は、クレスたちに冒険者ギルドでの話をするのであった。




