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緊急帰還

 馬車に戻り全員を集めて話をする。

 平原を黒く埋め尽くすほどいる魔物達は、まるで出陣前の軍隊のように宴を開いているように見える。

 中にはどこから手に入れて来たのか、酒を呷っている魔物までいる。

 一般的に魔物が酒を造ったりはしない。つまりそれは、既に人間の村を襲い食料などを奪ってきたということだ。その村がどうなったかなど、想像をしなくても分かる。


「やっぱりリーヴァがいるとは言っても、俺達だけで倒すのは危険が大きすぎる。

 一度、ルーブへ戻ってこのことを報告すべきだろう」


「マスターがそう言うなら仕方ないわね。

 でも、戻ってくるまでに近隣の村や町に被害が出るかも知れないわよ。

 いいえ、これだけの規模だもの既に被害は出ている筈よ?」


 ちらりと平原の魔物達を見るリーヴァ。

 その視線に釣られて、クレスたちもそちらを眺める。

 よく見ると樽ごと酒を呷るオーガや、魔物が作るとは思えない加工された保存食を食べるゴブリンやオークたちを見て、僅かに顔を顰めた。


「そうだとしても、俺たちだけで挑んで全部を討伐出来るとは限らない。

 それに万が一取り逃がして、他の場所に被害が及ぶことになったら意味がないだろう?」


『ほう、ウードにしてはまともな意見だな。

 少しは考えられるようになったか』


「お前なぁ。俺だって少しは考えるぞ?」


 睨みあう俺とヘルメスを窘めるように軽く咳ばらいをして、話を戻すリーヴァ。

 そこである提案を俺に持ち掛けてきた。


「どちらにしろ猶予は少ない。あの宴会みたいなのが終われば魔物達は移動を始めるでしょうから。

 だとすれば馬車では間に合わないわ。

 だから、私とマスターで先に知らせに行くのがよいと思うわ」


 確かにその通りだな。

 御者に話を聞いたところ、ここから王都まではまだ数日は掛かるという。

 王都へたどり着き、そこから軍を編成して戻ってくるとなると少なくとも10日は掛かるだろう。

 それまであの平原にいると魔物達が暴れないとは誰も保証出来ない。


 もし先に王都に向っているアルバートたちがこの魔物の大群に気が付いていれば既に王都に報告が入っているだろうが、それなら監視する兵士が見当たらないのはおかしい。

 まだ気が付いていないと考えるのが妥当だろう。

 だとすれば、急いでルーブに戻る方が早い。


「わかった。それなら直ぐに出立しよう。

 クレス、レイラ、マリア。

 俺がいない間、ここの監視をお願いできるか?」


「うん、任せてお父さん!

 私たちは街道側で待ち伏せして、街道に流れてきたら討伐していく」


「なるほど、少数を削っていくということか。

 分かった、無茶はするなよ?」


 そこで弱々しく声を掛けてきた人物がいた。


「あの~、私たちはどうすれば良いでしょうか?」


 王都に向かうために用意された御者たちだ。

 ここまで二交替で俺たちのためにずっと馬車を走らせてきてくれた。

 流石に彼らは戦えない。とはいえ、そのまま置き去りにする訳にもいかないな。


『あー、僕が馬車を護るから二人は中に入っていればいいよー』


「フェーン。俺と離れていても戦えるのか?」


『うん、問題ないよ。

 長時間じゃないし、それに魔力の元(エサ)はあそこにあるからね』


「なるほど、その手があったか。

 だけど本来のチカラを取り戻した訳じゃないんだ、無理はするなよ? 留守の間はそこの二人を頼むな」


 善は急げとは誰が言ったのだったか。

 とにかく、今は冒険者ギルドへ急がないといけないのだ。

 あの数がルーブみたいな大きな町を襲えば、多くの人が命を落とすことになる。


 それに多種多様な種族の魔物が混ざっているうえに、上位種までいるという。

 ルーブの町が襲われた場合は、並の冒険者たちだけではどうにも出来ないだろう。上位ランクの冒険者はルーブにはいなかったから、この数を相手にしながら上位種まで相手にするとなれば壊滅すらあるかもしれない。


 俺はリーヴァに跨り、空へ上がる。


「それじゃ、行ってくるな!」


「うん。気をつけてね、お父さん!」


 こうしてクレス達に見送られてルーブへ向かって飛び立つのだった。全員を運ぶことも可能だが、今回の場合は残す戦力は多い方がいい。

溢れ出てきた魔物を少しでも減らしておけば、近隣への被害も抑えられる。

 それに救援に駆けつけるであろう冒険者たちも、少しは楽になるはずだ。


「リーヴァ、全力で飛んだらどのくらいで着く?!」


「多分、半日も掛からないわよ?

 でも、本気で飛んだらマスターの体がバラバラになっちゃうわよー」


 今でも落ちないようにしがみつくのが精一杯だが、やはり全力で飛んでいる訳じゃないらしい。

 だがここで弱音を吐く訳にはいかない。事態は一刻を争うのだから。

 ここは気合いでなんとかするしかない!


『馬鹿者。気合いでどうにか出来るレベルでは無いわ。

 仕方ない、我が風魔法『ウインドシールド』で障壁を張るから、魔力を寄越すのだ』


「あら、風魔法を使えるくらいは元に戻っているのねヘルメス。

 それじゃ遠慮は要らないわね。いくわよ、マスター!!」


「う、うぉぉわあああああああああああっっ!!?」


 突然グンとスピードが上がり、吹き飛ばされそうになるほど風が襲いかかる。


『全く、手が掛かるやつだ。

 風の加護により、我らを守れ『ウインドシールド』!!』


 ヘルメスより緑の光が広がり俺の体を包み込む。

 その瞬間、さっきまで体を打ち付けるかのように吹いていた風がピタリと止む。


「おお、これはいいな!

 ヘルメス、たまにはやるじゃないか!」


『ふん、お主はもう少し我を敬う心を備えた方が良いと思うぞ?』


「はっはー!

 いつも感謝しているさ!

 さあ、急ごう!」


 俺たちは一条の緑の光を空に描きつつ、高速でルーブへ飛んでいくのであった。



 ──その頃、ルーブ冒険者ギルドでは。


「なんだと、北の平原で魔物の大群を発見しただと?!」


「はい、まだ詳細は未確認ですがいくつかの村が壊滅。

 駐在していた兵が瀕死の状態で先程報告に来たのです。

 他にもいく人かの冒険者があちこちの村がやられていると報告を上げています」


「まさか、スタンピードが起きたとでもいうのか?」 


 冒険者ギルド内には不穏な空気が流れる。

 誰もが、沈鬱な気持ちになりかけたその時だった。


「ギルマス! 空にでっかいドラゴンが飛んで来てます!」


「なんだとっ?!

 なんだってこんな時に!!

 直ぐに迎撃体制……いやまてよ?

 おい、どんなドラゴンだった?」


「えっと、水色の珍しい色のドラゴンですねー」


「お前、この間の騒ぎの時いなかったのか?

 それは護国竜様だっ!!

 直ぐに中庭に誘導しろ!」

 

 そして、より一層慌ただしくなる冒険者ギルドであった。

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