魔物の平原
アルバートが住む王国に向かうために、用意されていた馬車に乗り込む。
王族が乗るような派手なものとは違う。
その代わり、しっかりした素材と頑丈そうなしっかりとした素材になっており、国の使者や冒険者ギルドの重鎮などが使う高級馬車らしい。
馬に至っても立派で大きい。毛艶や筋肉の付き方だけでも、しっかりとした調教師が育てたことが分かる。
俺でも、ここまで立派な馬は中々お目にかかれないので、素直に感嘆した。
しっかりとした屋根もついているし雨風も問題ない。
これなら長旅でも疲れないだろう。なんとも贅沢な旅だな。
専任の御者が着いているため、俺たちがやることはないらしい。
休憩場所や、宿泊地など全てルートが決まっているので本当に運ばれているだけだ。
何もしなくていいというのはとても楽だけど、とても暇だな。
『こんな時こそ、修行に励むのが良いぞ?』
「確かに魔力切れでぶっ倒れても、運ばれているだけだから問題ないだろうけど……、流石に不用心じゃないか?」
「お父さんは心配性ね。私たちもいるし、大丈夫だよ!
それに空にはリーヴァもいるし、傍にはフェーンもいるんだから余程のことないと困らないよー」
確かに戦える神獣が二体もいるなんて、世界でこのパーティだけだろう。
本来の力は取り戻せていないが、それでも野生の魔物に負けるほど弱くはない。
リーヴァに至っては、魔力補給するため積極的に狩りをしてから周りに魔物がいないと探しに行くくらいだ。移動するだけでこの辺の魔物が減っていく。
それにクレスたちだってそこらの冒険者たちよりも強い。
試しに町の冒険者と模擬戦させて貰ったが、複数の魔法が使えて、更に剣も使えるクレスはなんと全勝した。
参加者には格上のBランク冒険者もいたのに、あっさり勝ってしまった時にはその場が凍りついていた。
そしてレイラは『高速剣』を駆使して戦い、別のBランク冒険者と戦いかなりいいところまでいったが、あと一歩で負けてしまった。
かなり悔しそうにしていたが、普通ならあっさり負けてもおかしくない相手だ。
本気を出させただけでもかなり凄いのだ。
マリアは参加しなかったが、模擬戦で怪我した冒険者たちを治療していたので、すっかり人気者になっていた。その見た目と相まってか、何人かには聖女様とか言われていたな。
何人かに求婚されていたな。きっぱり断っていたけどね。
「せっかく、ドラ息子から開放されたのになんで結婚迫られないといけないんですかっ!?」
「マリア、マリア。心の声が出ちゃっているからっ」
「マリアは可愛いから、どこに行っても男性に大人気だよね」
クレスが素直にそう告げると、マリアとレイラが胡乱な目つきに変わり両側の頬っぺたをつねり上げる。
「いたたたっ!いたひ、いたひひょっ!?」
「この中でだーれが一番人気なのか分かってないの~?」
「そうそう、その容姿と綺麗な髪でクレスに言い寄りたい男の人はたっくさんいるんだからね?」
「そ、そんひゃこと」
二人はやっとクレスの頬から手を離したかと思うと、俺の方に向って指をさす。
何事かとおもいきや、俺に文句を言って来た。
「そんなことあるのよ!
でもそうならないのは、クレスに言い寄りそうな男達をウードさんが追い払っているからよ!」
「そうそう。私達の時は放っておくのに、クレスの時だけすぐに反応するんだから。
親馬鹿だからだとしても、もう少し私たちも守って欲しいですわ!
それにお父様からも、『くれぐれも娘をよろしく頼む』と言われていますわよね?」
おおっと、矛先が俺に向いてしまった。
まぁクレスを男達から守るのは条件反射みたいなもので、無意識にやっているのだから仕方ない。
しかし、マリア達もしっかり守ってやらないといけないのはその通りだな。
『ふん、親馬鹿にしても度が過ぎると嫌われるぞ?
……しかし、この大陸に来てからクレスを見る男の数が増えたな。
これはやはり、女神の影響だろうか』
「女神?」
「女神様で有名な方と言えば、『月の女神』様ですね。
創世神話として伝わる物語にも登場する有名な女神様で、長く美しい銀色の髪に金色の瞳だったそうです。
まさに、今のクレスと一緒ね!」
「そんな物語があったのか」
俺はあんまり本を読まないから、神話とか物語とか全然知らないんだよな。
そもそも読み書きも前の村長に教わったし。
「もう、これくらい誰でも知っているよ。
ねぇ、クレス?」
レイラは俺をからかう様に言うが、困ったような顔をしてクレスが答える。
「うちの村にはあまり書物が無いのよレイラ。私はお父さんが町に出た時に買ってきてくれた絵本とかを読んでいたけど、本って高くて貴重なのよ?」
「そうだなぁ。サイハテ村で本を持っているのは村長くらいなもんだな。
読み書きも、俺は前の村長から教わったくらいだ」
「う、そうなんだ。知らなかったとはいえごめんなさい!」
「はは、気にするなレイラ。冒険者になる時にもっと俺もギルドで勉強しておくべきだった」
『うむ、そうだぞウード。しっかり学習しておけば、我のことも最初から理解できたであろうに』
ヘルメスさん、相変わらず厳しいですね。
でも、同じ神様なんだから最初に教えてくれても良かったんじゃないかな?!
「ということは、学校でもみんなクレスが女神様と同じ髪色だって知っていたのか?」
「ええ、もちろんそうですわ。男子の中には、影で女神様と言っていたお方もいらっしゃいましたし。
でも、クレスの成績が良すぎて遠目で見る程度でしたけどね」
うちの娘は可愛いと思っていたが、女神様レベルだったとは。まぁ、もっと大人になれば本当に女神になりそうだよ。
『何を馬鹿なことを言っているのだお主は……』
しかし、その後に続く言葉は俺の予想とは違うものだった。
『クレスは、その女神よりチカラを授かった一族の末裔なのだぞ?。
女神になることは出来ぬ……が、女神をその身に降ろすことは可能かもしれぬな』
「へっ? それって、『神降ろし』出来るってことか?」
『かの女神と接触出来ればの話だがな』
そんな話をしていると、魔物を探しに行っていたリーヴァが何かを見つけたらしく、戻ってきた。
「マスターー、あっちで大量の魔物を発見したわよー!」
「なんだって?!」
ここらは街道になっていて、商人たちも頻繁に使う。
そんな所から近くに魔物が大量にいたら、被害が出てしまうだろう。
「何処にいるんだ? リーヴァ案内してくれるか?」
「はーい、了解」
一旦馬車を止めて、俺はリーヴァの背中に乗り換える。
リーヴァの背中は、ひんやりしていてスベスベして気持ちいい。
普通の飛竜に乗る場合は鱗がゴツゴツザラザラしていて、鞍を付けないとまともに乗れない。しかし、リーヴァの場合はこの通り鱗がツヤツヤしていて触っても痛くない。それに魔法で落ちないようにしてくれているので鞍を付けないでも平気なのだ。
クレスたちはその場に残して、俺とリーヴァだけで偵察に向かう。大空に上がると風が強くなり、それがとても心地よい。
「あれか?!」
空から見ると、街道からおよそ2km離れた場所に大きな平原が広がっているのが見えた。
街道と平原の間には背の高い木々連なる林があり、街道からは平原は見えにくい。
そのため、今現在この平原にこれだけの魔物が集まっていると気がついているものはいなかった。
「それにしても、これだけいたら気がついてもおかしくない気がするけど」
「ん~、私たち神獣並みに鋭い感覚を持っているか、『索敵』スキルもちじゃなければ気が付かないかもね」
『リーヴァに乗っているから近く感じるだろうが、人間の足では半時は掛かる距離だ。
普通の人間では気がつくまい。実際に、お主も先程まで気がついていなかったであろう?』
「あ! 言われてみれば、確かにそうだな。
空から見ると近く感じるけど、普通にしていたらこの距離だと気が付かないな」
「マスター、ざっと200体くらいいるわ。
普通なら、軍隊を派遣するレベルだけど……どうする?」
「俺たちだけでどうにか出来る数じゃないだろ?」
「うーん、いるのはオーガが10体、オークが20体、ゴブリンやコボルトが50体、あとは魔獣が120~130体くらいかしら。
上位種が何体かいるけど、私もいるから倒せなくはないわよ?」
この大軍を前にして平然と倒せると言える当たり、さすが伝説の神獣だな。俺たちだけだったらまず勝ち目はない、というか戦おうと思わないぞ。
『とはいえ、ウードたちも戦うとなれば無事では済むまい。
一度、冒険者ギルドに知らせた方が良いのではないか?』
「あら、昔のアナタならひと飲みにしてしまうでしょうに、本当に力を失ってしまったのね。
でもマスターに大怪我させてしまっては、私も力を取り戻せなくなるし。もう、仕方ないわね……」
一通り偵察が終わると、一旦馬車がある所まで戻ることにしたのであった。




