悪意をうち倒せ!
「なんか、いつもと違うよ?」
『さっきのリーヴァが、ウードに降りているんだよ~』
クレスの疑問に、フェーンが答えを教えてくれたおかげで混乱は避けれたようだな。
しかし、神獣を体に降ろすことを知らないアルバート達が、必死な表情で戦ってたのにこちらを見て表情が死んだように落ちている。
いや、違うんだ俺の性格が変わったわけじゃないぞ?!
「たくっ、余計なこと考えている余裕はないわよ?集中して!」
確かにそんな事気にしている場合じゃなかった。
しかし、おっさんの声でこの口調はちょっと戦意が落ちそうだな…。
「…もう、仕方ないわねー」
『面倒だからやりたくないけど、こっちで話すわよ。
さぁ、人間たち。水竜神リーヴァたる私の指示に従いなさい…!』
そう言うと、頭に直接語り掛けるように声が聞こえてくる。
ヘルメスと同じく、こういう事も出来るんだな。
更に俺に使えない筈の水の魔法を撃ち放った!
『アクアスピア!』
意識は渡していても、自分の魔力を使い自分の体から魔法が放たれるのを見て、思わず感動する。
あれ、そういや俺の体から魔法が放たれている?
ヘルメスの時は、完全に体を明け渡していたし、フェーンの時は魔法なんて使わなかった。
だから何も思わなかったが、今俺は魔法を使っているんだ。
才能のない俺が!
夢にまでみた魔法を!
はは、凄いな。
これが魔法を使うって感覚なのか。
身体中から魔力が手の平に集まり、そこから外に放出されて魔法という事象が発生する。
その体験したことのない感覚に、自然と涙が目に溜まる。
おっと、おっさんが涙を流してもカッコ悪いだけだから我慢だ。
でも、それだけ嬉しかったのだ。
「ああ、魔法がこんなにも凄いものだなんてな知らなかったな」
不思議なことに俺の内側から魔力が湧き出てくる。
まるで何処かに溜め込まれていたものが、開放されたかのように。
魔力が溢れてくる。よし、これなら戦えるぞ!
『アナタから魔力が湧き出てきている?一体、どういう事なの?』
レーヴァにも良く分からない状態みたいだな。
やはり不思議なことが起きているみたいだ。
そんな事よりも、目の前のあのデカい奴を倒さないとだよな。
この不思議な現象もいつまで続くか分からないんだ。
『─いいわ、私が魔法を発動させるから、ウードが狙い定めなさい。
核を狙うのよ?』
「了解だ、狙いは核のある場所…」
(ウードよ、我の『神の目』を貸してやる。
─これで見えるだろう?)
ヘルメスの声が聞こえたと思うと、ガーディアンの胸の中心に紅く光るものが見えるようになった。
言われなくても理解出来た。あれが、あいつの核だな。
『いいわね?』
「ああ、いつでもいけるぞ!」
『海を司る我が神テティスよ、そのチカラを我に貸し与え給え。─水神槍!』
「いっけえええっ!!」
水魔法で作られた三叉の槍が、物凄い勢いで飛んでいく。
そのスピードはどんどんと早くなり、ガーディアンを真正面にとらえ、その胴体に突き刺ささり回転しながら貫いた。
グオオオオオオッ!!
胴にポッカリ穴があきながらも、まだ倒れる様子がないガーディアン。
なんてタフな奴なんだ。
しかし、その空いた穴から黒い煙の様なものが溢れ出す。
「あれは、もしかして瘴気か?」
「瘴気?!
それなら、私に任せて!」
「あっ、クレス!」
言うか早いか、飛び出すクレス。
「『高速電撃弾』!!」
手から放たれた電撃が、まるで光の玉のように圧縮されて撃ち出される。
既に胴に穴が空いたガーディアンは、躱す事が出来ずに直撃を受ける。
その勢い凄まじく、なんとガーディアンの頭を吹き飛ばしてしまった。
「おおっ、凄い威力だな!」
『まだよ、アイツの動きは止まってないわ!
あの瘴気がある限り、アイツは…』
「これなら、どう?!」
クレスから銀の魔力が立ち込める。
その魔力が風のように巻き起こり、銀色の髪がたなびいた。
銀色の光が辺りを舞い、まるで神話に登場する女神のように神々しくクレスを照らす。
『何あれっ!?あんな魔力を持つ人間なんて見たことないわ』
「…退魔の光よ、悪意を打ち滅ぼせ!『銀の制裁ッ』!」
銀のチカラがガーディアンに降り注ぐ。
みるみるうちに纏っていた瘴気が浄化されて、そのまま霧散していくのが見えた。
ガラガラガラッ!!
次の瞬間、支えを失った胴体がその場に崩れ落ち、転がった頭部には光は宿ってない。そしてそのまま単なる氷塊と化したのだった。
「やったわクレス!」
「なんと、あの巨大な魔物を倒したのか!」
辺りに歓声が響き渡る。
よく見ればその場に倒れ込む騎士達や魔道士達もいた。
彼等もかなり限界だったみたいだ。
「クレスと言ったね。君のお陰で皆が助かった!
本当にありがとう!」
「いえ、そんな。
お父さんがあそこまで弱らせてくれたから倒せただけです!」
アルバートも掛け値なしにクレスを賞賛していた。
謙遜するクレスだったが、間違いなくクレスがいなければ負けていた。
もっと誇っていいんだぞ?
でもそんなクレスを見て、俺はさらに誇らしく思うのだった。
『なーに、ニヤけた顔してるのよ?
あのお嬢ちゃんが倒したのは間違いないけど、貴方も頑張ったわよ。
本当に不思議な父娘ね』
こうして、ガーディアンとの戦いに終止符を打つ事が出来た。
流石に魔力切れだな。
もう俺の中にはほとんど残っていない。
限界なんかは既に超えている。
そして、俺の意識はそのままそこで途絶えるのであった。
暖かい風が吹く中、俺は一つの夢を見る。
美しい女性が、柔らかい表情を浮かべてこう言った。
『私の娘を宜しくお願いしますね』と。
その顔は何処と無くクレスに似ていて、大人になったらこうなるんだろうなと思うくらいだ。
俺はその見知らぬ女性に対して、『ああ、任せてくれ』と答えるのであった。




