お母さんじゃないよ?!
あたりに響く、悲鳴のような呻き声。
そのあまりの異様さに、全員が息を飲む。
その声に呼応するように、空からどす黒い何かがガーディアンに降り注いだ。
「一体何事だっ!」
「殿下、お下がりください!」
いち早く異常を察知し、騎士団長がアルバートを守るようにして下がらせる。
それに習い、他の騎士団員たちもアルバートを守るように前に出た。
「なにアレ…。何なのあの姿は…!」
この島の主であり、そして悠久の時を生きているであろうリーヴァが目の前に出現した異様なモノにたじろいた。
倒した筈のガーディアンに黒い瘴気が纏わりつき、それが氷の鎧を形成していく。
その姿はまるで氷の砦のようだ。
ただでさえ巨大なのに、威圧感がより増している。
目にはどす黒い光が宿り口からは黒い煙を吐き出しており、より凶悪さを醸し出していた。
「あれは、さっきのガーディアンなのか?」
「あれがさっきの奴と一緒なのか?」
姿が急に変り困惑するマリアとレイラ。
しかし、その原因をクレスだけが理解していた。
「あの空から降って来たの、『瘴気』だった!みんな気を付けて!!」
あのフェーンを狂わせた黒い靄の正体。
それは魔人が創り出した瘴気であった。
それが今目の前にいるガーディアンに憑りついたのだ。
「何あの黒い靄?『瘴気』って言ってたわね」
『魔人とやらが、魔獣などを狂わせている原因のようだ。
あれを浴びると、正気を失い暴れるのだよ。
そこのフェーンのようにな』
その言葉を受けて、しゅーんとしっぽを下げるフェーン。
フェーンが悪いわけじゃ無いから、ちょっと可哀想になりよしよしと撫でてあげる。
リーヴァの封印を解いた事で、俺も元の状態に戻っていた。
流石に長時間『神降し』したままだと、俺の魔力がもたない。
いつもの分身体に戻り、ふよふよと浮かびながらリーヴァを見上げて語るヘルメス。
ぱっと見はリーヴァの方が強そうなのに、対等に話をしているのに今更ながら可笑しさを感じてしまう。
「そうだったのね。詳しい話は後にしましょう。
それで、どうするの?」
『お主の封印を解いた時に魔力を使い過ぎたのだ。
何か手を考えねば…』
そんな話をしている間に、騎士団の方は既に行動を開始していた。
魔導士たちが魔法を詠唱し、炎の矢を降り注いでいる。
巨大になったガーディアンは、その魔法を鬱陶しそうに薙ぎ払う。
そしてさらに口を大きく開き、巨大な氷の槍を騎士団に向けて発射した。
「総員、防御態勢!!」
騎士団長の号令の下に、騎士団員が盾をひろげ魔導士たちが魔法による障壁を展開する。
魔法による壁を作れるとか、本当に優秀な魔導士たちだ。
「あのままでは、押し切られそうね。
かといって、わたしも殆ど魔力が残っていないわ」
「僕もあんまり魔力ないかなぁ。
攻撃出来ても、1~2回ってところだね」
フェーンもリーヴァの封印を解く為に、魔力を貸してくれたみたいだ。
そのせいで、既に魔力が枯渇状態らしい。
「やああぁっ!!」
クレスが死角から飛び込み、相手の背中を狙って剣で切り裂いた。
しかし、氷の鎧を削るだけで中まで届かない。
「ふっとべーーー!『爆炎高速剣』!!」
レイラも間髪入れずに魔法剣を繰り出した。
こちらも一部分を吹き飛ばしただけで、すぐに修復してしまう。
それどころか…。
ブウウウンッ!!
と音がなるほどの剛腕が襲い掛かってくる。
もはやそれは巨大な氷塊を打ち付けられるのと同じだった。
「─う、があああっ!!」
「レイラ!?─きゃあああああああああっ!!」
レイラが、クレスがその剛腕に吹き飛ばされた。
その威力は凄まじく、防具の一部が破壊される。
「レイラ!クレス!
今、回復を─『治癒』!!」
クレスが、レイラが、そしてマリアまでもその悪魔らしきガーディアンを止めるのに必死になって戦っている。
だが、手も足も出ない状態だ。
このままでは皆の命が危ない!
だが、こんな時に俺が出来るのは…。
これ以上は危険かもしれない、だけど俺に出来るのはこれしかない!
「なぁヘルメス。リーヴァのチカラを借りられないか?」
『リーヴァももう、魔力が少ない。
決定打になる攻撃は出来んぞ?』
「そうじゃない、俺の体にリーヴァを憑依させるんだ」
『リーヴァを完全に『神降し』すると言うのか!?
馬鹿者、契約した信頼出来る神獣だけだと言っただろう?』
「もう一回はやっただろ?
それに、お前の知合いなんだ信頼は出来るんだろ?」
さっきはヘルメスと『神降し』をして魔力をリーヴァに流し込んだだけなので、正確にはリーヴァを『神降し』したわけじゃない。
今度は、完全にリーヴァに体と魔力を明け渡すので危険度が全く違う。
それは俺にも分かっていた。
『そもそもお主の魔力もそれほど残っておらぬのに、これ以上は命を削るぞ?
それを分かっているのか?』
「もちろんだ。
でも、ここで死んだら一緒だろ?」
『…どうなっても責任はとらんからな!?』
ヘルメスは呆れと怒りを混ぜたような口調でそう言った。
しかし、諦めたようにリーヴァに語り掛ける。
『聞いたな、リーヴァ。
ここを切り抜けれねば、いくら神獣とはいえ朽ちるのみ。
協力してくれるな?』
「フフフ、なんとも不思議な人間ねぇ。うん、気に入ったわ。
いいでしょう、このまま朽ち果てるくらいなら貴方に賭けた方がいいわ。
さぁ、私の力を見せてあげる!」
『いくぞウードよ!
『神降し』!!」
ヘルメスが『神降し』を発動し、リーヴァを魔力に変えてウードに注ぎ込んだ。
すると、青い水の膜がウードを覆った。
「ふふふ、これが『神の贄』の体と魔力なのね。
与えられるのと、自分と同化するのでは心地よさが全く違うわっ!
さぁ、覚悟しなさい!私の本気を見せてあげる!」
俺の体で話すリーヴァ。
その様子を見てクレスが一言。
「お、お父さんが…、お母さんになった!?」
「何言っているのクレス!?」
クレスの驚嘆と、マリアの冴え渡るツッコミの声が辺りに響き渡るのであった。




