解放
俺の体が光り、体の主導権がヘルメスに代わる。
手に持つ杖を智慧の杖から宝杖に変えると、リーヴァを縛る魔法陣に向けてなにやら呪文を唱える。
何を言っているかは俺には分からないが、多分それが封印を解く魔法かなんかなのだろう。
俺は無駄に魔力を消費しないように意識を集中力させる。
クラーケンの時に怒られたばかりだからな。
「───、全ての呪縛より解き放て!『解呪』」
そんな事を考えている間に魔法が発動したようだ。
パキーーーン
甲高い破砕音が辺りに鳴り響く。
それと同時にリーヴァを縛り付ける鎖が砕け、後ろの魔法陣が輝きを失いつつ消えていった。
「うーん、さっすがヘルメスね。
しかし、この杭はやっぱり消えないのね」
「その状態では動けないか。
だが、魔法くらいは使えるのではないか?」
俺の体に乗り移ったヘルメスが、俺の声で話をしているのは未だに慣れないな。
それはさておき、ここからが本番だろうな。
「使えなくは無いけど、大きなチカラは発揮できないわねぇ。
それに余分な魔力は無いわ。
出来るならとっくにそいつ倒しているでしょうね」
「なるほどな、ではまずはその杭を破壊しないとだな。
見たところ、魔力を吸い取り霧散させてる魔道具のようだ」
俺に憑依した状態で『神の目』をつかうヘルメス。
どうやら魔道具の中で巡る魔力の流れを見ているようだ。
今この状態の時だけ、俺にも同じものが見える。
確かにリーヴァの中にある魔力が吸い出されて外に吐き出されている。
元はものすごい量の魔力があったのだろうが、それもかなり少なくなっている。
このままいけば、魔力を失いその存在が失われる事なんだろうな。
試しにとフェーンがガジガジ齧ってみるも、少し傷が付くだけでビクともしない。
物理的に破壊するのは難しいだろうな。
「ふむ、普通にやっても破壊するのは無理か。
やはり魔力を一気に注ぎ込み、限界量を超えさせるしか無いか。
我らが貯めていた量で足りると良いが…」
それはつまり、俺の中に貯められた魔力と杖の中に貯めた魔力を一気に解放するという事だ。
下手したら俺の命も危ないぞ。
「じゃあ、よろしく頼むわね?」
「軽く言ってくれるな」
気安く頼むリーヴァだが、それに仕方ないとばかりに返事をするヘルメス。
まるで長年連れ添った夫婦みたいだな。
「ゆくぞっ!」
気合と共に、一気に魔力をリーヴァに流し込む。
そして、その魔力を解放するリーヴァ。
まるで水紋が広がっていくように、魔力の波動が辺りに広がっていく。
「わーっ、綺麗だね…」
「クレスよそ見してる場合じゃないからっ!」
「わわわっ、危なかった!」
その美しい光景に一瞬目を奪われるクレス。
ガーディアンが放った巨大な氷柱に危うく当たるところだった。
「砕けっ、『氷結槌』!!」
ギリギリ躱したあと、マリアが覚えたばかりの魔法で氷柱を砕いていく。
あの華奢なマリアが巨大な氷のハンマーを振り回しているとか、冗談みたいな光景だが、魔法とは便利なもんだよな。
羨ましくなんか…とってもあるぞ!
「ウード、集中を切らすな!」
ヤバい、俺こそよそ見している場合じゃない。
魔力を上手くコントロールしないと。
「一気にゆくぞっ!」
「任せてちょうだい!はぁぁぁぁっ!!!」
ウードの中にある魔力を激流のごとくリーヴァに流し込む。
それを暴走しないように、必死になってコントロールする俺。
そして、受け取った魔力をある一点だけに集中していくリーヴァ。
ピキッピキピキッっと音を立てて杭の一本に光のヒビが入る。
「なんか、ウードさんとあのドラゴンが光ってない?」
「本当だ!綺麗だけど、最近良くお父さん光ってない?」
「レイラ、クレス!お二人共、お喋りしている暇があるなら援護してください!!」
「わっと、そうだった!」
「私達の仕事しないとだね!行こうレイラ!」
スキル『飛翔』で空を飛び、空からガーディアンを狙い撃つクレス。
今の状態の俺だからわかる。
凄まじい量の魔力を一点に集中し、密度の濃い魔力を練り上げ撃ち放った。
「貫け、瞬き翔ける雷─『高速電撃砲』!」
圧縮された電撃が超高速に加速され、撃ち放たれた。
カッと一瞬光と共に、一条の光線がガーディアンを撃ち抜いた。
ガアアアアアッ!!
「まだまだァっ!!吹き飛べ─『爆炎高速剣』!!」
レイラが空を舞うようにガーディアンに飛び掛かる。
突き出した剣の先で何度も爆発が起きて、火の華が咲き乱れる。
グオオオオオオッ!!
ガーディアンは堪らず後ずさるも、攻め手を緩めかなった。
反撃とばかりに槍のような氷が次々に降り注がれた。
クレス達は難なく躱すが、重い鎧を着ている騎士たちは回避しきれず少なくないダメージを受けているみたいだ。
早く援護にと、逸る気持ちを抑えつつ、俺は一点に集中する。
あの杭が砕ければっ!
ビキビキビキビキッ!!
もう少し!
─バリーーンッ!!
「よし、ひとつ目が砕けだぞ!!
すぐ、次のを砕くぞ!」
「その必要はないわ…。
この杭そのものが封印の刻印。
だから、一本でも砕ければ…」
パリンパリンパリンパリンッ!!
次々に弾け飛ぶ封印の杭。
そして、遂に…。
「あっはー!!何百年ぶりかしらっ!」
リーヴァが遂に解放されたのだ。
両翼を広げ、優雅にその巨体を空に浮かべる。
周りには宝玉のように輝く水の塊が浮かび、ガーディアンに狙いを定めた。
「いつまでも私の邪魔をしないでくれるかしら?
『水神槍』!!」
3つの水球から、凄まじい勢いの水が発射された。
その威力は凄まじく、たった一撃でガーディアンの体に3つの穴を穿つ。
まるで三叉の槍で貫いたかのようだ。
『ガガガガッ!!ゴゴゴゲガッ─』
意味不明な声を発したかと思うと、ガーディアンはそのまま倒れるのであった。
「私達が抑えるのがやっとであった化け物を、たった一撃だと?!
なんというドラゴンなのだ!」
あまりの光景に称賛と畏怖を込めて叫ぶアルバート。
流石に一撃で倒せるとは思っていなかった。
「フフ、当然よ?
私がこの島の主なのだからね!」
その言葉を皮切りに、歓声が上がった。
これで国に帰れる。
誰もがそう思った次の瞬間だった。
ギイぃぃぃぃぃぃイイあああぁ!!!
突然、聞いたことも無い悲鳴のような声があたりに響き渡った。




