青い神殿
突然現れたかのような蒼く仄かに光る扉に、誘われるように触れる。
すると、ゴゴゴゴゴと重苦しい音を立てて扉がゆっくりと開く。
止める暇もなく、ただその様子を見守っていた全員がその先に広がった景色に息をのんだ。
「凄い、神殿みたい!」
真っ先に声をあげたのはクレスだった。
可愛い声ではしゃぐ様子は愛しい限りだが、それどころではない。
その神殿らしき中心地に、遠目でも分かるほど巨大な何かが居るのが分かった。
「クレス、危ないから先にいっちゃダメだぞ!」
慌てて走り出しそうになるクレスを制して、その先にある何かを目を凝らして見る。
そこに居るのは、どうみても『ドラゴン』だった。
さっき襲ってきたオオトカゲと姿が少し似ているが、ハッキリと違う存在だと分からせる圧倒的な存在感。
その強者を無理やり封印しているかのように、巨大な杭と無数に張り巡らされた鎖でしばり付けられていた。
ドラゴンというのは様々な種類が存在する。
ギルドの書物に載っている代表的なドラゴンだと、次のような種類がいる。
空を自由に舞い、風を操るウインドドラゴン。
地を這い、全てを焼き尽くすファイヤードラゴン。
海を自由に泳ぎ、全ての海獣を喰らうシードラゴン。
翼を持たず、その巨大な四肢で大地を闊歩するグラウンドドラゴン。
どれも存在するだけで厄災となる、凶悪な魔物である。
見かけたら、何を置いても逃げろと髑髏マーク付きで文献に載っているほど、超凶悪な存在だ。
Aランクパーティーでも、全滅するほど強く、噂に聞くSランクパーティーでやっと互角なのだとか。
そんな存在が、今目の前にいる。
自然に嫌な汗が背中を伝うのが分かった。
しかし、暫くジッと観察するも動く気配が無い。
本当に、封印されているのか?
もしくは、もう命が尽きているのだろうか?
よく見ると、そのドラゴンらしき存在は姿形が文献に載っているもののどれとも違った。
全身が青白い美しい鱗で覆われて、背中には一対の大きな翼がある。
前足には鋭い爪が見えるが、その両側にヒレのようなものが付いている。
後ろ脚は無いようだが、あるだろう場所には美しい羽衣のようなヒレが付いている。
尾は三又に分かれており、その先もやはり美しいヒレが付いているようだった。
「うわ~、綺麗なドラゴンだねぇ。まるで天界にいると言う女神様の羽衣みたいなヒレがキラキラしているよ」
「そうですわね。でも、あんなドラゴンは本でも見たことがありませんわ」
レイラとマリアも、その美しい姿に見惚れているようだ。
なぜこんな所にいるのかは分からないが、このドラゴンがいるおかげなのか、周りには魔物がいないようだ。
「もしかしたら、あのドラゴンがいるおかげでさっきも魔物たちが追いかけて来なかったのかもしれませんね」
「そうかもしれませんね、アルバート様。だとすると、それだけ恐ろしい存在だという事になりますが…」
言わなくても、皆分かっている。
なにせドラゴンなのだ。
今ここにいる全員で掛かっても、まず勝ち目は無いだろう。
間違っても起こさないように、慎重に辺りを調べようという事になった。
そんな話をしている中、ヒョロリとヘルメスがそのドラゴンに近づいていく。
「お、おい!馬鹿、近づいたら危険だぞ!」
いくら元神獣でも、今は本来のチカラを取り戻していないヘルメスでは、ブレスでも吐かれた日には一瞬で消し炭になるだろう。
もしそうなったとしても、俺の魔力がある限りは復活出来るらしいが、問題はそこじゃない。
下手に刺激して、他の人々に被害が出たら大変な事になる。
そう思って止めようとしたら、思ってもいない答えが返ってきた。
『あ奴は…、古い知合いなのだ。こんな所に封印されていたのか…』
『…』
なんと、ヘルメスがあのドラゴンを知っているという。
そして、言葉にはしないがフェーンも何かを知っているようだった。
「おいっ、ウード殿。ドラゴンに近づくのは危険だぞ!」
「分かってます騎士団長。でも、うちのヘルメスがどうやらあのドラゴンと知り合いらしいので俺らだけで近づきます」
流石に一緒に行こうとは言えないので、俺らだけでドラゴンに近づく。
少し離れつつクレス達も後ろから着いてきている。
どうやら俺らの会話は聞こえていたみたいだ。
「ドラゴンと知り合いって、ヘルメスって何者なんだ?」
「前に言ったでしょうレイラ。ヘルメスはサイハテの山で神様と崇められていた神獣よ。…もしかしたら、あのドラゴンも魔物では無く神獣なのかしら?」
「そうかもしれないね!あのドラゴンさんからは嫌な感じがしないもの」
「クレスって、たまに野性的な勘を発揮するよなー」
「レイラ、それって褒めてる?」
レイラのあんまりな言い方に頬を膨らませて抗議するクレス。
その様子は可愛いけど、ドラゴンを前にしてあまりに緊張感がない。
ヘルメスが知っているなら安全とはならないのだが…。
いざとなれば俺が体を張って守るしかない!
『お主など、一撃で木っ端微塵だぞ?』
『だろうねー。僕らの中でも一二を争う怪力だったからね、彼女は』
おおいっ!俺の決意を挫くんじゃない!
というか、やはりフェーンも知っているんだな。
という事はこのドラゴンも神の眷属である神獣なのか?
『……懐かしい気配がするわね。そこに誰かいるの?』
すると突然空から声が降ってきた。
いや、これはあのドラゴンの声か?
近づいてみると、そのドラゴンは壁に杭で打ち付けられていた。
その壁には魔法陣が描いてあり、仄かに光っている。
さらにその上から鎖で雁字搦めにされているようだった。
その厳重さに息を飲む。
まるで解いてはいけない禁断の封印を目にしているようだ。
『懐かしいな、我が分かるか?』
『その声は…。まさかっ、ヘルメスなの?!』
『僕もいるよ~』
『その声は、フェーン…かしら?何故、あなた方がこんなところに?』
いるはずの無い相手の声を聞き、驚きが隠せない様だ。
そして、本当にヘルメス達の知り合いのようだな。
かなり離れた土地にいたのに、遥か昔には一緒にいたのだろうか?
『理由あって彼の地より離れたのだ。今は故あって、このウードと契約を結び共にしておるのだ』
『…なるほど、微かにだけど感じるわ。懐かしい魔力を持った人間といるのね』
そしてゆっくりと瞳を開くと、翡翠色の輝きがこちらを覗く。
そして今度はするする鈴が鳴るような、綺麗な声色でこちらに語りかけてきたのだった。
「初めまして、人間さん。私はリーヴァよ。
…私をここから解放してくれないかしら?」




