無人島漂着
クラーケンを見事に撃退した俺達だったが、上空を見るとさっきまでいた魔人らしき黒いフードがいなくなっていた。
「クラーケンがいなくなったから引いたのか?」
『いや、そうではないみたいだぞ?見ろ、さっきまで晴れていた空が濁って見える』
ヘルメスの言う通り、さっきまで晴れていた筈の空が濁ったように一気に曇ってきた。
それに、既にクラーケンはいないのに船の揺れが大きくなっている。
「アルバート様、大変です!」
「どうした船長。それにこの海の荒れ様は一体…」
「その事なんです。大変です、先ほどのクラーケンとの戦いのせいで『魔の海域』に突入してしまったようです。
このままですと、元の航路に戻れなくなります」
なんだって!?
『魔の海域』に近い航路を選んでいたみたいだが、さっきの戦いで入ってしまったらしい。
噂では、入ったら最後出て来れた船は無いという事だが…。
「なんとか戻せないのか!?」
「それが、さっきのクラーケンとの戦いでオルカがやられてしまって…」
そうだった。
オルカ達も懸命に戦ってくれていたが、かなり負傷してしまった。
まだ生きているが、魔力を与えてもこの荒れた海から抜け出す程の力が出ないようだ。
「オルカさん達、頑張って!!」
「癒しの魔法!」
クレス達が懸命に応援するも、オルカ達の限界も近かった。
マリアがなけなしの魔力で咄嗟に回復を試みるが、それも焼け石に水だ。
ヘルメスの『治癒』を使えば傷は癒えるが、オルカ達の体力を回復出来るわけではない。
それよりも、そっちに魔力を使ってしまった場合、オルカ達の制御が効かなくなるだろう。
次第に揺れが大きくなる船。
ガレオン級ほど大きな船になれば、一度転覆したら最後だ。
その巨体を海上で戻すなど出来ない。
オルカ達のおかげでギリギリ転覆を免れているに過ぎない。
「このままでは!船長どうにか出来ないのか!?」
「転覆しないように維持するだけで精いっぱいです!!」
さっきまで曇っていた程度だったが、『魔の海域』の中心に入るにつれて空も荒れだした。
あたりは強風と雷雨に包まれ、もはやどちらが目的地なのか分からない。
甲板に吹き付ける風と激しく打ち付ける豪雨。
さらに海も荒れ狂い、大きな波が今にも船を飲み込みそうだ。
この大きく揺れる船の上で、船員たちも命がけで作業を続けている。
生き残ったマストに掛かっている帆を降ろし、風の影響を少なくしようとしたり、転覆を避ける為食料以外の荷物を海に投げ捨てる。
その作業中に何人もの船員が海に飲み込まれていったが、助ける事すら出来ない。
その現実に己の無力さを痛感させられる。
「アルバート様!我々がなんとか船を持ちこたえさせます」
「魔導士長!出来るのか?!」
「はい。ですが、船を守るだけです。どこに辿り着くかは運次第となります」
「ここで諦めたら死ぬだけだ。やってくれ!」
「承知しました。…各員、船全体に保護結界を張るんだ!」
「「はっ!」」
この大揺れの中、詠唱に集中するだけでも大変なのに、船全体を守る魔法を使うなんて流石だ。
しかし、その努力を嘲笑うかのように巨大な波が船を飲み込んだ。
(やばい!)
咄嗟にクレス達を抱きかかえる。
その俺の上には、更にフェーンが覆い被さってきた。
『君達をここで死なせはしないよ』
『当然だ。お主に死なれては我も困るからな』
2匹に護られるのを感じたのも束の間、3人を大きな揺れにより頭を何かに打ち付けて俺はそのまま意識を手放してしまった。
───
──
─
気が付くと、俺は砂浜に倒れていた。
口の中に入った砂を思わず咽て吐き出し、我に返る。
3人は!?
…良かった、無事か。
あの時抱きかかえていた3人も、あの衝撃で気を失っていたみたいだが、息はしている。
大丈夫、ちゃんと生きている。
「クレス、マリア、レイラ!」
大きなケガも見当たらないが、全員びしょぬれだ。
このままだと、体が冷えてしまいそうだ。
「う、う・・・ん。あれ、おとう・・さん?」
「クレス!気が付いたか?!」
「あれ、ここは…」
「わたしは一体…」
クレスが気が付いた後、レイラとマリアもすぐに目を覚ます。
3人とも、船の上じゃない事に気が付きあたりを見渡した。
『やっと、目を覚ましたようだな』
『4人とも、暫く目を覚まさないから少し心配しちゃったよ』
そこにはヘルメスとフェーンがいた。
この浜辺に漂着してからずっと見守ってくれていたらしい。
「ヘルメス。あの後、一体何があったんだ?」
『うむ、では説明しよう─』
ヘルメスの話では、あの後すぐに大きな波が船を飲み込んでしまったらしい。
その際に船に波が流れ込み、俺達は甲板に打ち付けられてしまった。
その衝撃で気を失ったらしい。
それだけで、その波の勢いのすさまじさが分かる。
そしてそのまま俺達は海に投げ出されてしまったみたいだ。
それを察知したオルカが俺らを背に乗せて沖まで連れてきてくれ、そこからはフェーンが咥えて運んでくれたようだ。
あたりには人の姿はないらしい。
どうやらここは無人島のようだ。
アルバートや、他の乗組員や魔導士たちも近くには流れ着いてないらしい。
無事だといいのだが…。
『でも、ウード君って凄いね。気を失ってる筈なのに3人を離さないんだから』
『うむ、そうだな。海に沈んでたら道づれになるところだったぞ?』
ちょっと意地悪気味に、そう言ってくる2匹。
俺は無意識にやっていた事なので、苦笑いしか出来ない。
「そうだったんだ。お父さんありがとうね!
お父さんがしっかり抱えてくれていなかったら、みんなバラバラになっていたかもしれないって事だよね」
「どっちにしろ、あの状態だったらみんな沈んでただろうからね~。
オルカが助けてくれたのだって、ウードさんが居たからだし。
ウードさんのお陰っていうのは間違いないね」
「そうですわよ。ウードさんが守ってくれなければ、あの場で命を落としていたかも知れませんわ」
3人とも、なんていい子達なんだ!
目から熱い物が流れて止まらないよ。
『ったく、お主達はウードを甘やかしすぎなのだ。
我らだって、お主達を守っておったのだぞ?』
「うん、分かっているよ。ありがとうねヘルメス!」
クレスはそう言ってヘルメスの頭をなでなでしていた。
あのヘルメスが『ふ、ふん。分かっていれば良いのだ』とか照れているのが少し可笑しかった。
一先ずは、自分達の状況を整理しよう。
あたりも暗くなっているので、焚火をしつつ暖を取る。
季節は暑い夏を過ぎて、そろそろ秋に差し掛かる。
夜になれば、
服が濡れたままでは風邪を引くかもしれないので、マリアの生活魔法『乾燥』で服を乾かし、『洗浄』で綺麗にして貰った。
しかし、いつ見ても見事だな。
冒険者の中で使っている者を見たことがあるが、こんなに素早く綺麗に出来る人は見かけない。
そもそも使える冒険者が少ないので、泥だらけで帰ってくる人たちが大勢いるくらいだ。
それ専門の店があるみたいだし、魔法の才能があるというのは本当に貴重だよな。
焚火の火はレイラがやってくれた。
『このくらいなら、私でも出来るから!』と照れ笑いしていたが、ウインドの町で修業したお陰もあり最初の頃よりも精度が上がっている。
みんな日々成長していて羨ましい限りだ。
なお、薪の木は俺の持っている手斧で近くの木を切り倒して、薪割したものを使っている。
もちろん、木を伐ったのは俺では無くクレスだ。
手斧で木を伐り倒すとか、もう常人の域を超えている。
本人曰く、剣で魔物を斬るのと同じ要領という事らしいが、どっちも出来ない俺には理解出来そうにもなかった。
そんなわけで、俺はキャンプの準備のため簡易的な竈やテントを作るくらいしか出来なかった。
『ウード、お主ってあんまり役に…』
「言うな!分かっている…、俺が一番わかっているんだぁぁぁ!!」
「もう、ヘルメス!お父さんをいじめたらダメだよ!」
こうして、無人島に漂着した俺達。
互いの無事を喜びつつ、明日からの事を考えるのであった。
この先に、新たな出会いがあるとは予想もせずに…。
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