炎狼と銀の女神
祝コミカライズ決定!
ウードが操るオルカ達は懸命にクラーケンに喰いついていた。
しかし、相手は伝説の海の悪魔と言われる魔物だ。
あの鋭い牙に喰いつかれているのに、その勢いが止まる気配がしない。
それどころか、怒り狂って自身が持つ触手のような足を振り回しているせいで船のマストが何本も折られてしまった。
もしメインマストすら折られてしまったら、目的地に着くどころかこの後の航行に大きな支障を生んでしまう。
「オルカ達、頑張ってくれ!」
ウードも自身の魔力をオルカ達に与えて操り、船からクラーケンを剥がそうとしているが、船と同じくらい大きなクラーケンは一向に離れる事はしない。
十数本もある足を何度も喰いちぎっているが、いつの間にか元に戻っているように見える。
『ウード、クラーケンは肉体を再生するスキルを持っている。本体をどうにかしない限り、いくら喰いちぎらせても元にもどってしまうぞ!』
「そう言う事は…、早く言ってくれ!だが、オルカ達の攻撃もレイラの剣も、マリアの魔法も殆ど効いてないぞ!?
どうするヘルメス!」
レイラ達も大きく揺れる船の中、なんとかクラーケンを追い払おうと攻撃を繰り返している。
「『高速剣』!!」
「砕け!凍れ!『氷結槌』!!」
しかし足場が安定しないせいもあり、うまく狙いが定まらない。
威力が高い攻撃も、この状態では威力が半減しているみたいで足を一本潰すので精一杯のようだ。
他の魔法使いや船員たちも同じだ。
大砲なども使って攻撃しているが、本体に当たる前に足で塞がれてしまう。
「くっ。このままでは私の船ごと沈んでしまうぞ!
…怯むな!撃てー!撃てー!!」
予想外の状況になり、アルバートの顔にも焦りが浮かぶ。
それでも絶望して諦めるという事をしない彼は、やはり器が違う。
絶え間なく各兵士や魔法使いに指示と檄を飛ばしている。
「お父さん!私とフェーンであの大きなイカさんに仕掛けるわ!」
「クレス!?お前では、目の前に出た瞬間に食べられちゃうぞ!?」
「でも!」
飛び出そうとするクレスを必死に止める。
いくらクレスでも、あんな巨大な魔物相手ではひとたまりも無い。
一瞬で海に落とされてしまうのが目に見えている。
打開策も浮かばず、焦りに焦っていた時だった。
クレスを乗せていたフェーンが、俺に話掛けてきた。
『ねぇウード。僕に任せる気はないかい?』
─俺には、ヘルメスから授かったあるスキルがある。
そう、『神降し』だ。
これは神格を持つ、魔獣であればこの身に宿す事が出来るスキルなのだ。
そしてヘルメス曰く、『我以外の神獣であっても、その身に宿す事は可能であろう』という事だ。
但し、ヘルメス以外の神獣の場合はどのような影響が出るか分からない。
なんせ、試したことがないからな。
しかしもうそんな事を言っていられない状況だ。
時は一刻を争う。
俺は藁をもつかむ思いで、フェーンに二つ返事で応えた。
「─やるんだな?分かった、フェーンに俺の体を託す」
『君のそういう潔いところ、大好きだよウード。
時間が無い、すぐに始めよう!』
フェーンはクレスを船に下すと俺の前に伏せの状態で目を瞑る。
そして、何か呪文を唱えているようだった。
『ウードよ、我がサポートする。お主は魔力をコントロールする事だけ考えるのだ』
ヘルメスのその言葉を合図に、俺もスキルの発動のため集中した。
そして、ヘルメスはスキルを発動の祝詞を上げる。
『─神の贄はその身を捧げ、我と彼の者の魂を貸し与える。──『神降し:神狼』!』
次の瞬間、ヘルメスとフェーンが光の粒となって消え、その光がウードに吸い込まれていった。
そしてウードの意識が外に飛び出す。
自分が空に浮かび、自分の頭を上から見下ろしている。
そして、ウードの体に変化が起きる。
程よく鍛えていた肉体が、青白い光に包まれて更に筋肉隆々となる。
そして、その瞳には獣のごとく鋭く輝いた。
ヘルメス曰く、この状態を『神狼化』というみたい。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
フェーンが操る俺が空に向かって吼え、空を舞った。
体から溢れ出る魔力が外に漏れてキラキラと光を放つさまは、自分の姿ながら神々しさを感じる。
クラーケンの前に出ると、カッと口を大きく開いたと思うと、次の瞬間信じられない事を起こした。
「─『神狼炎砲!!」
大きく開かれた口から、紅蓮の炎がクラーケンに向って撃ち放たれた。
その熱気で俺も火傷するんじゃないか?と余計な心配をしていたが問題ないようだ。
『ウードよ、お主は雑念が多いぞ!しっかりと集中せい!』
そうだった、俺が魔力をちゃんとコントロールしないとすぐに魔力が枯渇して倒れてしまう。
そうなったら、この『神狼化』が解けてしまう。
クラーケンを追い払うまでなんとか維持しないと。
「─『神狼炎爪!!」
さっきの攻撃怯んでいる隙に近づいていた俺は、一気に近づいて右手に炎の爪を創り出した。
そして、焼き切るようにクラーケンを切り裂く。
ギュルオオオオオオオオオオオ!!
ついにクラーケンが悲鳴にも似た呻き声をあげた。
オルカの噛み付きですら意に介さなかったクラーケンも、俺の炎ならクラーケンにもダメージを与える事が可能のようだ。
創り出した炎の爪で、クラーケンを追い詰めていく。
そんな時、ふと見覚えがある物を目にする。
(ヘルメス、あれどこかで見たことないか?)
『お主はまた!…おや、あれは…。
そうだ、あの地下水道に落ちていた魔導具ではないか?』
余計な事に気をやる俺を叱ろうとするも、俺が意識を向けた方を見るとそこには、ジャイアントウーズを討伐した時に壊れた状態で発見した魔導具があった。
その魔導具は、クラーケンの額に埋め込まれており、何やら禍々しい気を放っていた。
『ウード、アレから発せられているのは、瘴気だ!』
(なんだと!じゃあ、あのクラーケンを魔人が操っているとかなのか?)
『はっきりとはわからぬが、だがアレを壊せばクラーケンを追い払えるかもしれぬぞ!』
いくらフェーンの攻撃が効いているとはいえ、このままでは船が先に壊れてしまう。
その前に元凶となるものを取り除けばいいのであれば、やる以外の選択肢はない。
だが、それが出来るのは…。
「クレス!聞こえるかい?」
「おとう・・さん?」
普段と口調の違う俺から声を掛けられて若干戸惑うクレス。
しかし、今は時間が無いので説明してる余裕は無い。
「今の僕は、フェーンだよ!詳しい説明をしている時間がないんだ。
僕が抑えるから、クラーケンの額にある魔導具を君のチカラで撃ち抜くんだ!」
「クラーケンの額…。あれは!…分かった、やってみせるよ!」
努力家のクレスは、魔力を感知する能力を日々鍛錬して向上させている。
その成果もあり、俺が言わんとすることを理解したようだ。
「あそこにだけ瘴気が集まっている。そっか、アレを壊せばクラーケンを追い払えるかも・・・?」
そう呟きながら、クレスは自身の魔力を銀の魔力へ変換していく。
瘴気を払えるのは銀のチカラだけ。
そして、そのチカラを持っているのはクレスだけなのだ。
「もうそろそろ、海に帰ってくれないかなー?
じゃないと、丸焦げにしちゃうよ?」
そう言いつつ、俺は両手に炎を纏い再びクラーケンに飛び掛かった。
燃え盛る炎に怯み、クラーケンは船に絡みつけていた足をスルリと海に戻した。
そのおかげで大揺れしていた船が、立てるくらいまで揺れが小さくなった。
「クレス、いまだよ!」
「ありがとう、フェーン!
…退魔の光よ、邪悪なるチカラを祓え!」
訪れたチャンスを逃さず、揺れの収まった船を翔けるクレス。
そのまま『飛翔』で宙を舞うと、その海を覆う程の大きなクラーケンの額に向かって降下する。
剣に銀色の魔力を纏わせるその姿は、まるで神話の女神を思い浮かべさせる。
遥か昔に、邪悪な神を滅ぼした女神がいたのだとか。
その女神は、銀色の髪と金色の瞳をしていたという。
「『銀の聖域』ッ!!」
銀の閃光がクラーケンの額を撃ちぬいた。
バリンッと音を立てて、魔導具が壊れる。
それと同時に、クラーケンを支配していた邪悪な気配が消え失せていく。
「おおっ!!」
「「やったぞー!」」
「やったー、クレスがやったわ!」
「凄いですわ!流石クレス!」
船から歓声が上がる。
クラーケンがついに、海に沈んだ。
蠢く触手のような足も、動きを止めて海の中に沈んでいく。
あたりには、クラーケンの姿形も見つけられなかった。
空には太陽の光を受け、髪を白銀に光らせ、金色の瞳の輝かせる少女が浮かぶ。
(ああ…、もしかしたら俺の娘は女神の生まれ変わりなのかもしれない!)
そんな事を思いながら、空に浮かぶクレスを誇らしく思うのであった。
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7/9(金)から、スターツ出版社の電子コミックの『Comicグラスト』にてコミカライズが連載スタートします。是非、応援よろしくお願いいたします!
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