海の悪魔とおっさんテイマー
「一体、どうやってこんな海の上にやって来たんだ?!」
アルバートが驚くのも無理はない。
さっきまでは、他の船なんて見当たりもしなかった。
どうやら空を飛んでいるようだが、『飛翔』スキルで飛んできたとしてもあり得ない。
ここまで船で移動しているのだ、かなりの距離を移動しているので普通なら魔力が切れて海に真っ逆さまだろう。
しかし、悠々と飛びつつ魔法により船を攻撃している所を見ると、ここまで何かを使ってきたんだろう。
「くそっ!折角船を直したばかりなのにあの野郎!」
「あんな高さじゃ、弓矢じゃ届かねー!魔法で応戦しろっ!」
船上には怒号が飛び交う。
船員は命を狙われている状態にありがならも、火事を抑える為燃えたマストの消火活動を行っていた。
護衛の隊長らしき人物が指揮を執りつつ、魔法部隊が反撃に出るも相手までの距離がありすぎて魔法が当たらないようだ。
「このままでは一方的に攻撃されるだけだぞ!なんとかするんだ!」
逃げ場のない海の上で狙われたとあって、あのアルバートですら焦りを顔に滲ませている。
彼自身も魔法を使えるようだが、黒いローブに届くほどの魔法を持ち合わせていない様だった。
船が魔法の衝撃大きく揺れたあと、3人がいる甲板へ俺達も駆けつける。
あたりは火を消したり、怪我した船員を治療したり、空から降り注ぐ魔法を防いだりと大混乱だ。
「お父さん!」
「クレス、大丈夫かっ?!」
襲撃された際に、巻き添えで怪我をしていないか心配だったが、特に問題ないようだ。
多少のケガとかならマリアの治癒魔法があるから心配する必要がないだろうが、それでも自分も娘の事だから心配してしまうのは親の性だ。
「うん、私達は平気!」
俺は、それを聞いてほっとした。
クレスの言う通り、3人とも怪我をしている様子は無かった。
しかし、事態が解決したわけじゃ無い。
船に乗っている以上、俺らも他人ごとではないからだ。
既にレイラとマリアは戦闘態勢をとっているが、相手が空の遥か上では打つ手がないようだ。
「アイツ、空に逃げてて私じゃ届かないわ!」
「わたくしの魔法も、あの高さでは威力が出ませんわ」
レイラは魔法が得意でないので剣での攻撃が届かない範囲では、そもそもが攻撃を仕掛けられない。
マリアも氷魔法を放っているが、途中で威力が落ちてしまい簡単に打ち消されていた。
「こうなったら…。クレス!私に『飛翔』を掛けて!アイツに突っ込んで直接に剣をお見舞いしてやるわ!」
「そんな、危ないよレイラ!見たところ、凄い魔法使いみたいだし、自由が利かない空では簡単に返り討ちにされちゃうよ!」
「でも、このままじゃ船がヤバイよ!」
レイラの気持ちが分からないわけじゃ無いが、こんな大きな船をたった一人で足止めさせている時点でかなりの使い手だろう。
格上の相手に、無策に突っ込んでも簡単にやられてしまうだろう。
「自分で使わない『飛翔』は、コントロールが難しいの。だから、行くなら私が行く!」
「クレス!」
「お父さんは、ヘルメスと一緒にみんなの治療をお願い!」
「ダメだ、一人で行くなんて危険過ぎる!」
自分で『飛翔』を使うクレスであれば、レイラよりは自由に動けるだろう。
しかし、それでも格上な相手と戦う事には何ら変わりないのだ。
ここは何としても止めねば!
と思っていたのだが、思わぬところからクレスに助け舟を出されてしまう。
『ウード~。それなら僕が一緒に行くよ。いくら弱体化したとは言っても、君等よりは僕の方が魔力のコントロールは上手だからね。だから、クレス。背中に乗せてあげるから、僕に『飛翔』を掛けて上にあがろう』
「ヘルメス、二人を止めてくれ!」
『何を言っているんだ、お主。これ以上の適任はおるまい。
フェーンとクレスに任せた方が、この中の誰が行くよりも良いに決まっておるわ。
それに、気が付いていないのか?
あの空の黒いフードの気配を』
「…まさか!?こんな所で『魔人』が襲ってきているのか?!」
「うん、お父さん。私もそんな感じがするの。だから、私に行かせて!」
「分かった、絶対無理をするんじゃないぞ?
フェーン、お前にクレスを任せたからな?
ケガさせるんじゃないぞ?絶対だぞ!?」
『ウード、過保護すぎ。でも、大丈夫だよ。僕の方が上にいる奴よりも強いからね!』
フェーンがそう言うと、俺の中からごっそりと魔力を持っていかれた。
普段は、ヘルメスが魔力供給する量を抑えているみたいなのだが、それを解除したようだ。
俺から魔力を受け取ったフェーンが、青白く光る。
するとフェーンが膨らむように大きくなり、さっきよりも二回りほど大きく変化した。
『じゃあ、行こうクレス!』
「うん、宜しくねフェーン!─『飛翔』!!」
フェーンの周りを緑色の風が包み込む。
するとふわりとフェーンが浮かび上がった。
それにクレスがたっと駆け上がって、フェーンの背中に飛び移った。
クレスが乗った事を確認すると、フェーンが空に浮かぶ魔人らしき者へ向かって空を駆け上がった。
「馬鹿な!狼が空を翔けるだと!?墜ちろ人間!!─『フレイム』!」
流石に船から空へ向かって駆け上がってくる狼がいるなど、想像もしていなかっただろう。
だが魔人らしき者は、驚きの声を上げつつも炎魔法でクレス達を迎えうつ。
しかし、驚きはそれだけでは済ませない。
空を縦横無尽に駆け上がるフェーンの背中から、クレスが魔法を放つ。
「雷よ、…瞬き翔けろ!─『高速電撃弾』!!」
「この魔法は!?──」
光の如く、突き抜けた雷はその者の頭を捉えた。
一瞬にして燃え尽きるフードから現れたのは、なんと骸骨であった。
「あわわっ!?一瞬で融けちゃった!?」
『違うよ、あれは元々そういう顔だったんだと思うよ~?』
慌てるクレスに、呑気な口調で応えるフェーン。
しかし、目線をその魔人から逸らす事はしない。
直撃を受けた筈なのに、相手は空に浮かんだままなのである。
つまり、相手は─。
「一瞬、油断した。しかし、それだけの事だ!この程度では私を止める事は出来ぬよ!…荒れ狂え、海の主よ!」
まるで狂ったかのように、叫ぶ魔人。
だが、そうでは無かった。
なぜならば、それに応える者が現れたからである。
海から突如無数の触手が現れる。
それはガッチリと船に絡みついて、締め上げていた。
ギシギシと船を軋ませて海の中から現れたのは、とてつもなく巨大なイカだった。
「うわあああああっ!!クラーケンだ!海の悪魔が現れたぞ!」
「まさかっ、伝説上の魔物じゃなかったのかよ!」
「終わりだ・・・、やはり『魔の海域』は通っちゃいけなかったんだっ!!」
この世の終わりかのような表情を浮かべ、己の運命を呪う言葉を投げる船員たち。
しかし、それだけで終わりでは無かった。
「ふはははっ!ここで海の藻屑となるがいい!」
魔人に応えるように、クラーケンが周りに巨大な渦を創りだす。
その余波で大波が起こり、船に襲い掛かかるかのように波が打ち付けられる。
「やらせない!フェーン、あの魔物に向って!」
『分かったよ!でも、間に合うかどうか・・・!』
クレスとフェーンはすぐに船に引き返した。
クラーケンの足を狙い、何度も『電撃』を使って引き剥がそうとする。
フェーンもその鋭い牙で、何度もその足に傷を付けるが一向に離れる気配が無かった。
「きゃああ!ここままでは、船が…沈んでしまいます!!」
「マリア!私に捕まってて!!ああっ、大きな波がっ!!」
大きく揺れる船にまともに立つ事すら難しいマリア。
そのマリアの手を掴み取り、振り落とされないように反対の手でマストにしがみつく。
大きすぎる揺れにより、既に何人かの船員が振り落とされ海へ投げ出されている。
気を抜けば自分達も同じ運命だ。
いや、このままではあのクラーケンをどうにかしない限り、この船自体が沈んでしまい自分達も海の中だろう。
皆が絶望する、その時だった。
キュウーーーーイイッ!!
オルカ達が、甲高い声をあげて飛びあがりその鋭い視線はクラーケンに狙い定めている。
4頭の大きな海獣オルカが一斉にクラーケンに襲い掛かる。
大きく開けた口からは鋭い牙の様な歯がずらりと何本も並んでいる。
船に取り付いた巨大なクラーケンの足を喰いちぎると、次に本体に向って高速で体当たりをした。
クラーケンも怯まず、狙いをオルカ達に定めると触手のような大きな足を振りかざし打ち付ける。
しかしオルカ達は海に潜り、するりと躱す。
クラーケンは、海の中では高速に移動できるオルカ達を捉える事が出来ないようだ。
ギュオオオオオ!!!
怒り狂うクラーケンは、無茶苦茶に足を振り回した。
それが何度も船に当たり、船は大きく傾いていく。
キュウーーーーイイイイッ!!
更に甲高く鳴くオルカ達は、ついにクラーケンの本体に喰いついた。
4頭のオルカ達に喰いつかれたクラーケンは、それでも船にしがみつき、海に引きずり込もうとしていた。
「オルカ達!頑張ってくれ!!」
そう、クラーケンを倒す為にオルカ達を操っていたのはウードであったのだった。
いつもお読みいただいてありがとうございます!
もしよろしければ広告欄より下にある、
評価★★★★★をチェックいただけると今後の励みになります!
是非、よろしくお願いいたします。
ブックマークもとっても嬉しいです、ありがとうございます!
これからまだまだ続きますので、どうぞよろしくお願いいたします。




