本当のチカラ
魔獣オルカが処分されるような事があれば、クレスが泣いてしまうかもしれない。
クレスを泣かせるわけにはいかない俺は、早速魔獣オルカと接触を試みる事にした。
だがしかし、今まで魔獣への『手懐け』はしたことが無い。
ヘルメスやフェーンとは、『手懐け』スキルを使ったわけではなく『契約』というヘルメスが持つスキルによるものだ。
『契約』は『神獣』と謳われるような高度な知能を持つ生物にしか出来ないらしく、俺のスキルとは全く関係ないのだ。
それ以外には『手懐け』を出来るような魔物や魔獣に会ったことがないんだよな。
魔獣ならどれでも『手懐け』出来るわけじゃ無いし。
試したこともあるが、成功した試しがなかった。
悩んいでたところ、理由をヘルメスが教えてくれた。
ヘルメス曰く、『手懐け』スキルを成功させるには相手の魔力を上回らないといけないという。
そのため、ヘルメスに出会った頃の俺ではどの魔獣も無理であっただろうという事だ。
逆に言えば、今の俺なら『手懐け』スキルを成功する事が可能だという事だ。
どうやら、毎日の日課であるヘルメスの特訓のお陰で、俺はとてつもなく魔力が増えたらしい。
とてつもなく苦しい特訓であるが、それにも慣れてきた。
変な扉は…、うん、開いていない、俺はまだ大丈夫だ。
「魔獣オルカは、魔獣の海賊と言われるだけあり非常に獰猛な性格をしていますが、知能がかなり高いのです。
その為、ギルドで指定されている脅威度はCランクにもなります。
これは、BランクのパーティーもしくはBランク冒険者と同等の強さという事になります」
「流石はマリア、魔獣に詳しいな。つまりは失敗すればとっても危険な魔獣に戻ってしまうわけだな」
「はい、それもありますがヘルメスの言う事が正しければ、Bランク冒険者と同等以上の魔力を備えていないと成功率が厳しい事になります」
「確かにこのオルカ達を操っていたテイマーはBランクと言っていましたね」
Bランクのテイマーといえば、かなり希少な人材だ。
本人の実力もそうだが、実績を積まないとランクは上がらないからだ。
…そんな実力も経験も豊かな冒険者を、いとも容易く屠る事が出来る”何者か”が襲ってきたのだ。
その事実に、背中に冷たい物が流れる気がした。
「よ、よし!じゃあ、始めましょう!」
今、俺は小舟の上にいる。
餌係の船員と交代して、今は俺とヘルメスとフェーンだけがこの小舟に乗っている。
フェーンのふわふさな毛が背中をくすぐり、緊張感をほぐしてくれる。
俺は遠慮しているが、クレスなんかはたまにフェーンにダイブしてもふもふしている。
正直に言おう、とっても羨ましい!
でも、俺がそれをやるとエースが拗ねるのでやらないようにしている。
一回やって懲りました。
うん、あの時は脚に歯型が付いたからねー。
よし、緊張は解れて来たぞ。
魔法の鎖に繋がれているとはいえ、目の前にいると凄い迫力だ。
顔だけで立ち上がった俺と目線が一緒である。
今は隠れている牙で噛みつかれたら、間違いなく一撃であの世行きだろう。
「魔獣オルカよ!俺と一緒に行こう!『手懐け』発動!」
すると今まで起きなかった事が起きた。
俺の手の平から、魔法のような紋様が浮き上がりそれが目の前の魔獣オルカを包み込んだ。
すると…。
「ギュイ?」
ゆっくりと泳いでこちらに近づくオルカ。
そしてザバァーと水面から顔を出してきた。
一瞬喰われる!?
と思ったが、口を開ける様子はない。
それどころか…。
「キュイキュイ!」
と見た目に反した可愛い声で鳴き、その大きな顔を擦り寄せてきた。
これは、どうなったんだ?
『お主も鈍い奴よのう。新しい『主』に撫でて欲しいのだよ、こやつは』
「ええっ!?成功したってことか? …えーと、よしよーし」
つるつるすべすべひんやり。
いや、思った以上に気持ちいいな。
「あっ!お父さんずるーい!」
「こらこら!まだ終わってないんだから、身を乗り出すんじゃない!」
自分も触ろうと思ったのか、船から降りて来ようとするクレスを慌てて止めた。
懐いたオルカに触りたいらしいが、残り3頭もいるのだ。
他のオルカが暴れるかもしれないのでまだ安心するのには早いのだ。
それにいくら身体能力高いからって、あの高さから飛び降りようとするとか俺の心臓に悪いから辞めて欲しいぞ。
「よし、残りの子もやってしまおうか!」
気を取り直し、再び『手懐け』のスキルを発動する。
しかし、今までこんな紋様が出たことがないよな。
そういえば、今まではわざわざ意識してスキルを使った覚えがない。
動物と魔獣では何か違うのだろうか?
そんな俺の疑問に、心を読み取ったヘルメスが答えを導き出してくれる。
『お主の能力は、動物相手であれば魔力を必要としないのだ。
しかし、魔力をもつ魔獣相手にはその魔力で同調しなければならないのだぞ。
だから、そのような紋様が浮かび上がるのだ』
流石1000年以上生きた神獣だけある。
色々と詳しいな。
『ふん、伊達に長い時を過ごしておらぬわ』
『というより、ウードが知らなすぎなだけな気がするけどね~』
のんびりとした口調だが、辛辣な事を言うフェーン。
何気にフェーンも毒舌なんだよな。
ちょっと凹むぞ。
………
……
…
しかし、最初の杞憂はどこへやら。
何も問題なくオルカ達を手懐ける事が出来た。
「す、素晴らしいですねウードさん。…というか、前のテイマーよりも懐いているみたいですが…」
アルバートが驚くのも無理はない。
正直、自分が一番驚いている。
魔獣オルカの契約を上書きするどころか、4頭とも俺に甘えるくらい懐いてしまった。
そのおかげで…。
「わあーい!楽しいね!!」
「凄い凄い!凄いですわ!」
「うひゃー、これは気持ちいいいね!」
なんと、クレス達3人娘を背中に乗せて海を泳いでいる。
なんなら、ジャンプ迄してはしゃいでいるのだ。
「あんな事しているオルカを見た事ないですよ。私も乗ってみた…。ごほん、いやウードさんは期待以上ですね。これならば問題なさそうですね。改めて、これから宜しくお願いしますね」
『羨ましい。しかし貴族たるもの、そのようなはしたない真似は…』とアルバートは何かを葛藤しているようだったが、取り敢えず無事にクエストを達成出来そうで良かった。
この日は他のテイマーや飼育担当と打ち合わせをし、実際にオルカ達に指示を出して船を動かして船の位置を入れ替えたりと訓練も兼ねて遅くまで従魔の訓練をするのであった。
───
港が良く見える建物の上から、その様子を眺める黒い影。
ウード達がオルカを使っての操船訓練を忌々し気に見つめる者がそこにいた。
「ち、余計な事をしてくれる。…だが、その方が都合が良くなった。これをうまく利用すれば…」
その言葉をかき消すように強い風が吹く。
風が抜き抜けた後に、その姿は何処にも無かった。
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