大型魔物
「火弾!」
俺はジャイアントスパイダーに魔法を打ち続けた。虫系の魔物は火が苦手だ、だから俺は初級火魔法の火弾を使っている。
だがジャイアントスパイダーには全くではないが効いていない。初級魔法では弱すぎるのだ。
俺の火魔法のレベルは3だからまだ中級魔法を打つことは出来ない。
くそっ!どうすればいいんだ!レッドドラゴンズは負傷したドングの治療に専念している。
ここは中級魔法まで使える風魔法を使うべきなのか?そう思った俺はやけくそで風魔法をジャイアントスパイダーに向かって放った。
「風槍!」
俺は単体特化の中級魔法『風槍』を使用した。
ウィンドランスはその名の通り不可視の槍を作りそれを敵にぶつけるのだ。殺傷能力は高いがその反面命中させるのが難しい。
俺はジャイアントスパイダーに向かってウィンドランスを放ったのだがジャイアントスパイダーには効いている感じがしなかった。
やっぱりか!こんなことなら火魔法のレベルを上げておくべきだった!
俺はこの一週間で風魔法の便利さに囚われてひたすら風魔法しか使ってこなかった。全属性均等に育てようと誓ったのだ。
本当にどうしよう……精霊達に力を借りるか?いや、それは出来ない。サイガ達が近くにいるから精霊魔法を使えば確実にバレてしまう。
「おい、ガキどうすんだ?このままじゃあ俺たちもろともこの蜘蛛やろうにいかれちまう。ドングは負傷してネロとメグリは回復魔法を使うのでいっぱいだ。動けるのは俺とお前だけだ。」
ネロさんとメグリさん2人がかりでやるほどの怪我をしたのか!ドングさん大丈夫なのか?
2人がかり?2人……2……あ!いいこと思いついた!
「ガキじゃないです。僕にはテオバルトって名前があります。サイガさん、あなたのおかげでいい案が浮かびました!僕自身初めてやることなので少しの間時間稼ぎ出来ますか!
1分……いや30秒でかまいません!」
「わかったよ!お前の案が上手くいったらちゃんと名前で呼んでやる!それにたったの30秒でいいんだな?この俺様を誰だと思ってやがる!将来はSランクになるパーティーのリーダーだぞ!任せろ!」
そう言って俺はジャイアントスパイダーの相手をサイガに任せ俺はたった今思いついたことに挑戦し始める――
――俺は今人生最大のピンチに立ち向かってる。
俺の目の前にはジャイアントスパイダーがいて俺の後ろには守るべきパーティーメンバーがいる。
そして俺の横には目障りだったガキ冒険者のテオバルトがなんだか訳の分からないことをしている。
俺はこの場面を切り抜くためにテオバルトに託した。そして今はそのための時間稼ぎを任されたんだ。
正直なんで俺は引き受けたのか分からない。ただあの時はあいつに任せるのがいいって俺の勘……そう冒険者の勘が言ったんだ!
俺は背中に背負っている愛剣のロングソードを構えた。
「来てみろよ巨大蜘蛛!これより先は行かせねぇ!!」
30秒きっちり稼いでやる!
「スラッシュ!!」
俺はまず剣術スキルである『スラッシュ』をジャイアントスパイダーに向かって打った。
手応えはあった。俺がそう感じるのとは裏腹にジャイアントスパイダーは先程と何も変わっていなかった。
そりゃそうだ。俺はまだEランク冒険者、それに相手はBランク推奨魔物。格上相手に俺の技が通用するはずがない。
だがそれでいいんだ。もとより俺はジャイアントスパイダーを狙っていない。
そこから俺はひたすらスラッシュを打ちまくった。
その間ジャイアントスパイダーは俺を嘲笑うかのように何もしてこなかった。つまり俺は恐れるに足りないやつなんだろう。
だがその油断が命取りとなるんだ。
「これでラストだ!ダブルスラッシュ!」
俺はスラッシュの上位互換である『ダブルスラッシュ』を打った。
その瞬間周りにあった木々がジャイアントスパイダー目掛けて倒れていった。
そうだ、俺は森というフィールドを活かしてジャイアントスパイダーを抑え込むことに成功したのだ。
「おいガキ!もう30秒たっただろ!ここまでやってやったんだ!失敗したら承知しねぇからな!」
そこで俺は疲れ果てその場に倒れ込んだ。
「サイガさん!十分です!ありがとうございます!こっちもたった今準備が整いました!」
サイガさんが必死に稼いでくれた時間を無駄にはできない!
俺は格下に1本取られたことが気に食わなくて怒っているのかさっきまで青かった目が赤に変わっているジャイアントスパイダーへヴェルネアスを突き出した。
「頼むからこれでやられてくれよ!!炎嵐!!!」
この瞬間世界でまだ見ぬ魔法の可能性が生まれたのだった。
炎嵐などという魔法はこの世に存在しなかった。つまり今まさにテオバルトが新しく生みだしたのだ。
先程まで禍々しいオーラを放っていたジャイアントスパイダーはその名の通り炎の嵐に焼き尽くされてしまった。
ふぅ〜上手くいって良かったよ……Bランク推奨の魔物ってこんなに強いんだな。これからいっそう気合を入れて修行していかないと……
「テオバルト!お主さっきのはなんじゃ!妾は結構な年生きてきておるがあんな魔法見たことないぞ!」
「あぁ、さっきの魔法は風魔法の嵐踊に火属性を混ぜたんだよ。そしたら実質火属性の中級魔法が打てるかなって思ったんだ。」
そう俺はネロさんとメグリさんが協力して回復魔法を使っていることから別にひとつの属性だけで魔法を打たなくてもいいのではと思ったんだ。
「お、お主は本当に規格外じゃな……妾はいっそうテオバルトのことを気に入ったぞ!それでこそ我が主じゃ!」
「ありがとう。なんだか面と向かって言われると照れるね……」
「テオバルト君、本当にありがとう。あなたのおかげで私たちは救われたわ。」
「いえいえ困った時はお互い様です。ひとまず試験監督達が来るのを待ちましょうか……」
俺はやっと終わったのだと一息つこうとしていた。
「いや〜まさかジャイアントスパイダーがやられるとは思っていなかっぜ!さすが俺様を殴っただけはあるな〜、テオバルトくん!」
俺の後ろから聞き覚えのある声がした。その声はもう二度と聞くことがないと思ってた煩わしい声だ。
俺はそっと後ろを振り向いてみた。
「メ、メイビック!?なんでここにいる?」
一難去ってまた一難、どうやら俺はまだ休めないらしい。
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