草むらの中からこんにちは
お久しぶりです。
とりま、練習とリハビリってことで。
《プレイヤー名『フィィア』の死亡を確認》
《来歴を確認……『大罪人:壊』として君臨しています》
《専用デスペナルティ『罰則』を適用》
《第1『罰則』、アイテムロスト2倍》
《所持品を5種類以上、ランダムで失います》
《『絶空Mk.2』、『子機第三演算片』、『子機外装片』、『子機外装片』、『子機外装片』、『子機制御線』、『怨染石』、『子機怨染外装片』を失いました》
《第2『罰則』、行動阻害》
《リスポーン後1時間、行動可能エリアをリスポーン地点以外不可能とします》
《第3『罰則』、リスポーン地点変更》
《既プレイヤー到達エリア内で非安全地帯へとランダムにリスポーンします》
「できるかな?『白の侵食』」
『罰則』……多分、『大罪人:壊』とかいう名前のクエストをクリアしたせいだろう。ワールドアナウンスで重い”罰則”が課せられる、って言ってたし。
でまあ、今回の『白の侵食』はリスポーン地点をこっち側で操作できないかなって思ったわけだけど……。
《【存在意義】派生能力による干渉を確認》
《【存在意義】派生能力による干渉は禁止されています》
「あ、対策されてた……。やっぱりNeNG社はなんやかんや言って優秀だね」
因みに、NeNG社はこのゲームの開発運営社の名前。NeNG、新しい空白地帯の創世、っていう大層なコンセプトの頭文字をとった企業だ。何十年か前なら「厨二乙www」とか言われるほどの恥ずかしいネーミングセンス。
……まあ、本当にコンセプトどおりに行動してるから、この恥ずかしいネーミングセンスにも目をつむれるけど。
《追加『罰則』を適用します》
《追加『罰則』、プレイヤー名『フィィア』に1時間ヘイト値上昇を付与》
「……これやっちゃったパターンだよね」
うん、今後は安易なデスペナ干渉はしないようにしよう……。
◼
目を開ける。まず目に入ってきたのは大量の剣のように鋭い天に伸びる緑の葉。こういう形の植物だと思い込むのは簡単だけど……多分、触れたらカスダメが少しずつ蓄積していくとか、そういったものかもしれない。
次に聞こえてきたのが、この草が擦れる音に混じった異物。音の軽さからして、恐らくは秋田犬よりも少し小さいくらい。
最後感じられたのは、殺意を向けてくる30を超える気配。恐らくは僕の周囲の生き物の殆どが向けている。
なるほど、これがヘイト値上昇、何もしていないのにアクティブな敵は僕に向かってくる感じか。
「……っ!」
足元から飛び出してくる気配に、咄嗟に『絶空MK.3』を作り出して切り伏せる。
それが合図だったかのように、次々と殺意が向かってくる。
もう一本『絶空Mk.4』を作り出し、二刀流にして手数を増やす。
その場で回転するようにして、周囲の草を円形に刈り取り、少しでも見晴らしを良くしたところで、足元から瘴気が立ち上ってくる。それを素早く魔石ごと吸収したところで、次々と草むらから小動物……兎や猫、犬、ヤンバルクイナに似た鳥が次々と出てくる。
しかし、その刈り取った円形の部分は既に僕の射程範囲内。
「……ふッ!」
よく見れば角が生えた兎を《首狩り》して頭と首をサヨナラさせる。
二股の尾を持った猫を《突き落とし》で腹を開く。
水に濡れた犬を《首狩り》した後の勢いをそのままに《斬衝》で脳を破壊する。
ケバケバしい色をしたヤンバルクイナ似の鳥を《突き落とし》した位置から《相似閃》で割る。
足元からでてきた最初に斬ったやつと同じ……ミミズにモグラの手が生えたキモイやつを《剣渡し》で《絶空Mk.3》と《絶空Mk.4》の持ち手を手首のスナップだけで入れ替えるのに巻き込ませて3つに分ける。
後ろから近づく何かに『黒の消滅』を圧縮して放ち、当たった部分から同心円状に波紋が広がるよう操作。
頭上から降ってきた大きいコックローチはキモイので《絶空》の要領で大きめの壁を作って、閉じ込めて、一瞬で圧縮することで断熱圧縮を起こして処分。
現実では死角となる部分も気と魔力の肉体再生を利用して強引に対処する。
逐次放出される瘴気は取り敢えず『白の侵食』で支配するだけに留める。
◼
後ろ足だけが人の頭サイズになった以外は普通のバッタを《裂け眉》で頭から胴体にかけて穴を開ける。
そのまま残心……と見せかけて最後の最後まで傍観に徹していた殺意の主がいる方向に向かって《絶空Mk.3》を投擲。
そして本当に残心。
少しだけ頂点に近づいた太陽の日差しを感じながら息を吐く。
「……さて」
周囲に漂う瘴気を見て……思わず頬をひくつかせる。
ゴブリン換算で凡そ390体分はありそうな量の瘴気が一定の場所に漂っていて、それが『白の侵食』によって白くなっているから、ここは雲の中かと錯覚してしまう。
事実、途中からは目ではなく耳と気配だけでしか探れなくなってしまったから、どんだけ殺したのかという話になる。
「……」
まあ、それはそれとして。
今僕は、結構悩んでいる。
これまで、と言ってもほんの数時間前までなら瘴気は吸収していた。
僕自身の魔力と気の増加にも繋がるし、何より成果がちゃんと確認できるのは楽でいい。
しかし……
「《怨毒》、それに《死煙》、ね……」
ふむ……
フィィア君の使った技解説
《首狩り》:首の骨と骨の間にある軟骨の隙間を的確に見分けて抵抗を感じることなく切り落とす。とある流派の基礎にして奥義。
《突き落とし》:読んで字の如く。突き刺した後に一瞬のラグすら許さず突き刺した面に対して直角になるように振り落とす。傍から見るとすごいヌルヌルした動き。
《斬衝》:斬れてしまうかしまわないか、その一瞬で急停止して、斬撃を体内に衝撃として送り込む。剣版の発勁。大概の奴は失敗して切り裂いてしまう。
《相似閃》:全く同じ軌道を全く同じ距離行き来する振り上げと振り下ろし。剣を見ることができない速さでやると、何もせずに切られたように見える。とある一族の一家伝来の秘奥。見取った。
《剣渡し》:ジャグリングするように剣を持ち変える。本来はリーチが違う剣を使っている時、距離感を見誤らせるための技であり、決して攻撃技ではない。決して攻撃技ではない。大事なことなので2度言った。
《裂け眉》:眉間に素早く突きこみ、素早く戻すことで眉間が裂けたように見せる技。使ったあとは脳漿が噴出するので素早く避けるまでが一連の流れ。
投擲:何気に亜音速に届きかけている。魔力と気ってすげー。
技は適当です。