「……へ?」
リハビリ兼ねて
「がっ!あぁあ!」
結論から言おう。僕は《死煙》に飲み込まれた。
密度を上げることで効果を上げた二種の波動は、《死煙》が僕に迫るよりも早く、それを魔力と気に変換して吸収できていた。
但し、誤算だったのは余りにも《死煙》に含まれていた魔力と気の量が少なかった事だ。
例えば、ゴブリンが残す瘴気。あれに含まれている魔力と気と怨念の量を10:10:10とするなら、この《死煙》に含まれている魔力と気の量は1:1といった感じだ。
そして恐らく《死煙》の核になっているであろう怨念の量は1000、といったところか。
僕は当初、この鬩ぎ合いは僕が有利だと感じていた。
僕の手札である『白の侵食』と『黒の消滅』は、頗る燃費が悪い。それがどれ位かというと、どちらかを1秒全力で解放するだけで僕の初期状態での魔力が1割が消費される、と言えば燃費の悪さが分かるだろう。
それでも尚僕が有利だと感じている根拠は、魔力を大量に吸収した事による魔力量の大幅増加にある。
ゴブリンの怨念に含まれていた魔力は結構少なかったけど、それでも塵も積もれば何とやら。
僕はあのダンジョンで軽く三桁を超えるゴブリンを蹂躙した。そしてその怨念は余すことなく僕に吸収されていて、今や僕の魔力、気量は初期状態の数十倍はある。測ろうと思えば測れるんだけど、そこまでするのは少しめんどくさいし。
それに、《死煙》からも魔力は得られていたので、状況演算からも僕が最終的には勝利すると考えていたんだけどね。
思ったよりも《死煙》から得られる魔力が少なくて、僕の魔力は早々に底をついた。
もう、ね。思いっきり頬を引き攣らせたよ。僕の結構昔のスパコン並みの演算が外れたんだから、ね?
こんな、こんな事態が……
「あぁあ!くっ!ぁははははっははハハハハッ!」
悦ばずして、いられるだろうか?!
「僕がっ!僕が外れた!間違ったことは無かったのにっ!これは偶然か?!否っ!断じて否っ!必然だっ!当然だっ!これこそが敗北っ!これこそが失敗っ!ねぇ!僕を殺したロボットくん!いやロボットさん!どうやったんだい!?どうやって僕の演算を外したんだい?!いや、言わなくてもいい!寧ろ言わないでくれ!いや、それよりもその知識を多数に向けて発信してくれ!」
『……』
「あはははは!はっぐふっ……」
これ、は……ちょっと不味い、かな?
恐らく、ペナルティの感覚増加。これのせいで、《死煙》に巻かれる苦しさが現実に近づいたものになってきてる。
その苦しさに紛れるようにして、僕の体が徐々に白と黒の光の粒になって分解されていってるのが感じられる。
「時間、かな?あぁ、結構楽しかったよ……」
僕を超えることが出来るのは、恐らくAIだろう。8歳くらいの時にそう感じたんだけど、まさかそれが現実になるとはね。いや、ここは仮想現実だし、現実ではないかな?
ま、だとしても……
「これが、敗北、か……」
『……名ヲ、聞コウ』
所々に黒が混じった純白の機体。その形は人型で、しかし頭部があるべき位置に頭部がない。
僕が切り落としたからなんだけど、この機体の言を信じるなら、あれは第三演算機だったみたいだね。ということは、この機体は2度も僕の演算を外したのか。いや、すごいな……。
「……フィィア。その名をココロに刻んでおくといい。何れ、僕はまた君に戦いを挑ませてもらおう。敗者として、正々堂々と、ね」
『フィィア、ト、申スノダナ?』
「だから、さっき1回言ったじゃん。というかもうそろそろ本当にやばいから、もう答えられないと思うよ?」
『イヤ、コレ以上ノ問答ハ必要ナイ』
「……?それってどういう……」
《ワールドアナウンスをお伝えします。只今、プレイヤー名『フィィア』が隠し世界クエスト『大罪人:壊』のクリア条件を満たし、『大罪人:壊』として君臨しました》
《これより、世界クエスト、及び隠し世界クエストが進行します。》
《プレイヤー名『フィィア』は、『大罪人:壊』として、極微小な優遇と重い罰則が科せられます》
《また、既にクリア済みの世界クエスト、及び隠し世界クエストはメニューからクリアするまで何度でも受注可能ですが、一部クエストは特殊空間へと強制的に転送される場合もごさいます。クリア済みの世界クエスト、及び隠し世界クエストをクリアされた場合、該当クエストで本来入手できるはずだった報酬が劣化した状態で与えられます》
《今後も、『Life of Raison d'etre』をお楽しみください》
「……へ?」
そんな、僕の気の抜けた声とともに、僕はデスった。
隠し世界クエスト『大罪人:壊』
クリア条件:ゲームを始めてから1日以内に街中で乱闘騒ぎを起こし、PC、NPC問わずで大量殺戮を起こした上、お仕置きロボットを破損させた状態で街としての機能を凡そ3割以上機能させなくする
クリア報酬:隠しパラメータ『称号』の《大罪人:壊》(運営側が検索しやすくするための目印以外の効果なし)・フィールドオブジェクトの優先破壊権(例:ダンジョン内の鍵を探す系の大扉を破壊できるようになる。(出来るもんならなぁww))
クリア罰則:デスペナ時ペナルティ2倍・あらゆる街への入街不可・マップ系の能力を使用されると、どんなに距離が離れていようと必ず距離と方向が表示される(別空間は対象外)
世界クエストと隠し世界クエストの違い
世界クエスト:いつでも条件さえ満たせば誰でもクリア可能。クリア条件も街中で聞き込みすれば時間はかかるが普通に出てくる。基本的にデメリットなしのクエスト。
隠し世界クエスト:条件がとてつもなく難解だったり、時間制限が厳しかったりと、そもそも見つかることを想定していないクエスト。難易度が独自に設定されており、難易度に応じて報酬が増える要素がある反面、クエストの性質上、明らかなデメリットを背負わすだけのクエストも存在する。代表的なのデメリットクエストは『罪人』系列。
今回フィィアはロボットとの戦闘でロボットに《死煙》を発動させ、街人口を5割減らした。丁度町の中心部で起こった戦いだからね。しかも、『大罪人』系クエストに関しては相手側がNPCだった場合にのみ限り、被害を全部自分が起こしたことにされる。相当な鬼畜クエ。現実にあったら糞ゲー間違いなしだね!