運営室長の胃に20ダメージ
文字数なんか考えてませんからね?
とりあえず三話投稿
とあるオフィス内にある電脳世界。
そこは《Life of Raison d'etre》の総合運営室。
ゲームが6倍速下の状況だと現実世界では処理が追い付かないため、このゲームに限り、運営は7倍速の電脳世界に接続することが出来た。
多くのログインした人間とAIが慌ただしく仕事をこなし、一区切りつこうかというところで、事件は起こる。
「し、し、室長!室長ーー!」
「どうしたのかね?いつも冷静な君らしくもない。それとも何か?何か問題でも起こったのかね?」
室長と呼ばれた一人の男は、騒ぐモニター専門のスタッフを宥めるため冷静に話しかけてはいたが、次の言葉で時が止まったかのように固まった。
「プ、プレイヤーが1名!無限迷宮に侵入しています!!あ、あぁ、い、今、ゴブリンを瞬殺しました!!って、何してやがんのこいつ!?はぁ?!瘴気吸収しやがった!!何なの!こいつ!こっわ!ていうか、何気軽に魔力と気を使いこなしてやがんだ!!まだ始まって数時間だぞ!!あと何その笑い声!怖いわ!!って、何虐殺始めてんのぉぉぉ!!!おいいい!!」
しん、と静まり返った電脳世界で、男は今起こったことをありのままに叫ぶ。
無言で職員一同が男の注目していた映像を閲覧し、やがて無言で天を仰いだ。
「……あー、君、ちょっと落ち着きたまえ、な?」
「これが落ち着いていられますか!そもそも!!無限迷宮にいることは千歩、いや億歩譲っていいとします!!ゴブリン虐殺もです!!!ですが!!瘴気の吸収!!これだけはダメです!!!なぜなら!瘴気を吸収していくことは!!魔力と気を気軽に増やすことだからです!!!こんな簡単に増やさせてたまるものですか!!!何のためにレベルその他を廃止したんですか!!!!簡単に上がるレベルでのインフレを起こさないためでしょう!!!」
ムグッ、と言葉をつまらせる室長。
その間にもプレイヤーによるゴブリン大虐殺後の瘴気吸収は続き、遂には一欠片の瘴気を残すことなく完全に吸収された。
「……仕方ない、緊急事態だ……。メインAIに通達。このプレイヤーの詳細を表示!諸君、ここで見聞きしたことは、一切の他言を禁ずる!マイクロチップにもこの命令を刻ませてもらう!」
その言葉の一瞬後、プレイヤー……『フィィア』の詳細情報が纏められたウィンドウが表示される。
【・プレイヤー名『フィィア』
・【存在意義】は【無価値】
・派生能力はどちらも現象支配系統の『黒の消滅』、『白の侵食』
・魔力、気の扱いは既に一般人レベルを少し超過済み
・初期位置転移時、『白の侵食』により転移術式を侵食、反対概念である『黒の消滅』により侵食部位のみを的確に消滅させた
・瘴気に含まれる残留思念や怨念といった負の想念を『白の侵食』により侵犯、『黒の消滅』より消去。その後、ハーバーボッシュ法の応用により魔力と気を吸収
・性格や人格等……閲覧不許可
・閲覧不許可
・閲覧不許可
・閲覧不許可
…………】
この時、全員の心境が一致した。
(((ああ、移動にわざわざ転移を使ってある種の目標を見せるんじゃなかった……)))
設定上、転移術式などは頑張れば獲得できるため、プレイヤー全体にはまずこれを目標に頑張って欲しかった。
しかし、この転移術式を使ったのが完全に裏目に出てしまった。
「ん?でもいいんじゃね?」
その時、一人のストーリー立案課の社員がふと呟いた。
「だってこれ、もう【存在意義】使いこなしてるってことだから、普通に成長してるんじゃないの?このプレイヤーだって、使えるのを使っただけだし」
「いや、しかし、だな……」
「だぁぁぁ!もうめんどくせぇ!もういいじゃないかよそれで!!んな事でいちいちうじうじと!!!想定外は想定内!!このゲームの根底のひとつじゃねぇか!!!」
今度こそ何も言えなくなる室長他一同。
「分かったら仕事だ!!こっちはこっちで忙しいんだよ!!!どうせデスれば初期リスに戻んだからほっとけ!」
そのあんまりな物言いに、深々とため息をつく音が聞こえる。
しかし、反論が何一つ出てこなくなると、黙って仕事を始めた。