燕太という人物
まあ、この話も所詮は説明ですよ、ええ。次が本編ですね。
そして一つ、作者は
ダンジョンが大好きです。
その少年、檜垣 燕太は天才である。
何事をやるにしても、初めは一般人と同じレベルで始まる。その姿からは、あまり大成するような気配は感じられない。
しかし、一月経つと、もはやその言葉を言ったとは信じられないほどの実力をつける。
剣道ならば全国一位と互角の勝負をし
柔道ならば白帯にも関わらず黒帯を投げ飛ばし
テニスならば狙ったところに確実に打ち
野球ならば取らせず、全てホームランを取り
サッカーならばボールを一度も取らせず
数学ならば小学1年にも関わらず微分積分学を解き
科学ならば子供のうちから国際チームと共同研究し
家事ならばどれも一級品以上の出来を讃え
20秒でおよそ1,500字を読む速読を会得し
量子演算機を1から数ヶ月で組み立てる
もはや天才とは燕太を表すためにあると言っても過言ではない。
しかし、その才能は、燕太に恩恵をもたらすと同時に、それ以上の不幸を燕太へと齎していた。
一言で言ってしまえば、友達と呼べるような存在が存在しない。
物心つく前より其の才能が発揮されていた燕太は、周囲から気味悪がられ、遠巻きにされていた。それを知るや否やどうにかして改善しようとするも、それ自体が真逆の方へ向かい、数日で燕太は一人になった。
五歳と少々の男の子が、一人になる。
それは徐々に今まで無償の愛を注いでいた家族へと広がり、家庭崩壊を引き起こした。
母親はアルコールへと逃げ、急性アルコール中毒を引き起こし、燕太の目の前で死亡。
父親は曲がりなりにも愛していた存在が死んだことでショックを受け、鬱を罹患。その後、何を思ったか夜中にこれまで稼いできた資金を燕太に残し、何処かへと蒸発していった。
燕太が8歳の頃だった。
涙は、出尽くしていた。
残された燕太は、資産狙いで寄ってくる自称親戚を虫のように払いながら、今後をどうにかするかを考え尽くした。
その後、燕太は残された資産の8割を父親名義で株へと投資。
並外れた予測能力によって軽く一山を当て、その資金をさらに株で増幅させた。
そして来る2180年。
発表されたばかりの《Life of Raison d'etre》を発見し、自身には関係の無いものだと切って捨てた。
しかし、2回目のPVをみて、とある心境の変化が起こった。
…………このゲームが僕の存在意義を証明してくれるなら……
…………このゲームが僕の存在を正しく証明してくれるなら……
…………この疫病神と関係の無い、性格や人格から作られる能力だったら、あるいは……
…………僕を負かすことができる存在が、居るかもしれない……
燕太が17歳の時だった。
そもそも、燕太自身は何も悪くないのだ。
持って生まれた才能。それこそが諸悪の根源。
しかし、同時に持って生まれるものであるからこそ、他人の嫉妬を買いやすく、人々を遠ざける。
燕太はそんな生まれ持った自身の才能を、何より、自分自身を、世界で一番嫌悪している。
自身を【無価値】だと切り捨てる程度には。