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第二戦

 目の前にあるのは、首を刈り取って地面に倒れていくプレイヤー()アバター()


 それを見つめながら.......右手で振り切った《絶刀MK.5》を破棄、新たに逆手に生み出した《絶刀MK.6》を振り切る勢いを活かして後頭部付近へ一閃。

 ガラスが割れるような音と共に僅かに感じる冷気。

 瞬間的に『黒の消滅』を背後で展開、そのまま球状に囲んで余波を完全に殺す。


「さて.......」


 呟きと共に後ろを振り返りながら、『黒の消滅』を刀身に纏わせて、振り下ろす。

 全てを消し去る黒の波動は、刀身から伸張し、だいたい20m先までの空間を細く一直線になぞっていく。

 その直線上の明らかに何も無い空間から慌てて女性.......うん?.......あぁ、ネカマの人が飛び出して来た。


「少しくらい、勝利の余韻に浸らせてくれても良いんじゃない?」


「くそが.......」


「こらこら、そんな綺麗な顔しといてその言葉遣いはダメでしょ」


 思わず苦笑と共に出てしまった言葉に、彼女()は苦虫を何度も噛み潰したかのような表情をしてくる。

 それは奇襲が失敗した上で反撃されたからか、それとも現実での性別がバレてしまったからなのかは.......多分両方かな?


 ただその吊りあがった目は爛々と輝いているし、それが彼女()がまだ全然諦めていないことを示してくれている。


「それじゃ、弁明があれば聞こうか」


 それに対する彼女()の返答は、まあ、予想通りだった。


 突然両目が失明したかのように何も見えなくなった。

 ので、なかなかに懐かしい歩法《雷成》でランダム軌道をとることにする。

 この技のキモは、走る以外に考えないこと。そうしないと、法則性が生まれてしまうから。


 そして走ってる間にも迫ってくる気配に対して刀を振るい、或いは魔力強化した拳で打ち砕いていく。

 雷に近い速度で動いてるにも関わらずこうしてちゃんと当たっているのは、一発一発にホーミング性能がついてるのかもしれない。


「化け物か.......!」


「いや、プレイヤーだよ」


 なんとも不名誉なことが聞こえたのでしっかりと言葉で返答するも、音に近い速度が出ているせいでちゃんと彼女()に聞こえているかの確認ができない。多分すごいブレブレの音になったんじゃないかな?


「こいつ.......見えてないくせに.......『排出(イジェクト)泥床(でいしょう)の招き手』!」


「お?」


 と、突然踏み込んだ足が地面に沈み込み、抜けなくなる。

 このままだと溜まりに溜まった運動エネルギーが足を破壊するので、咄嗟に《絶刀MK.6》を投槍型に変形、思いっきり気配のある方へ投擲することでエネルギーの捌け口とする。


「なっ.......くそが、『排出(イジェクト)不死(デビ)────』」


 不可視だったのが幸を成したようで、どこかに当たったような気配がする。

 そこを目印に、さらに小さな刃を周囲の空間から作り出し(切り取っ)ては指に挟んで投げていく。


「くっ.......そが.......やめ.......」


 なんか言ってるようだけど無視無視。

 手心はあんまり加えない。


「お、見えるようになった」


 多分30秒くらい続けたんじゃないかな?そこら辺で視界に光が戻ってきて、どんな状況かを知ることが出来た。

 まず真っ先に足元を見てみると、僕を中心とした3メートルの範囲が沼地になっていて、そこから生えた泥の手が足をがっしり掴んでいた。

 面白いのは、僕の足から伝わる感覚からすると、どうもこの手、相手に捕まったことを気取らせないよう触られた感触を無くしている。


「あは♪」


 いいね、これは。

 現実には存在し得ないからこそ、現実での動きがメインの僕にとっては予想の範囲外になってしまう。


 あの機械も瘴気を使うっていう点では確かに現実離れしてたけど、人型ロボットなんてありふれている形だから新鮮味はあまり無かった。


 その点、やはりこういう異能力はいい。

 新鮮だし、何より楽しい。


「ま、それはともかくとして、っと」


 目線を戻して、彼女()の様子を見てみると、まあ酷いものだった。

 多分脚の付け根部分に空いている細長い穴が槍投げの結果かな?

 で、それ以外の細かい傷があの刃の結果だろう。

 首が傷ついてしまって運悪く血管にでも当たったのだろう。出血多量でもうすぐデスポーンするのが目に見えているからか、地面に大の字になって転がっている。


「だから、化けの皮が剥がれてるよ」


 再び苦笑を浮かべながらそう言えば、気だるそうにため息を吐いたあとこちらへと目線を向けてきた。


「なあ.......1つだけ、聞いていいか?」


「もちろん、1つだけと言わず2つ3つでもいいよ」


「はは.......さすがに死ぬわな、そんな質問に時間かけてるんじゃあ」


 それじゃ、と彼女()はひとつ前置きをして質問をしてきた。


「その左手、というか切断面。んなに血ぃ出てりゃあ普通死ぬだろ。どういう理屈でまだデスってねぇんだ?」


「あぁ、これかい?」


 疑問に答えるように、左腕を持ち上げてわざとらしく目の前に掲げてみせる。


「簡単な事だよ」


 そして、今まで使っていた『黒の消滅』を部分的に解除。

 それと同時に滴る血を受け止める白い漏斗状の器と、その先から僕の首の血管内にまで伸びる白い線が見えるようになる。


「そもそも、僕は血を一滴たりとも体外に漏出させていない」


『白の侵食』で流れた血液を支配した後、静脈に戻す事で実質的な損害をゼロにする。

 そしてそれを悟られないよう、『黒の消滅』で『白の侵食』の周りの空間の接続面を消去。

 光は空間の接続面を迂回するように移動するから、セルフ輸血(・・)は一目では悟られない。

 注意深く観察すれば血液が地面に接触する瞬間に消えるのを見ることができるけど、そんな暇は与えない。


「まあ、コスパが余り良くないからしたくはないんだけど」


 そこまで説明すると、彼女()は思わずといったふうに感嘆の息を吐き、


「『吸収(インサート)白紅(しろあか)の循環』」


 何やら【存在意義(レゾンデートル)】を発動した直後にデスポーンした。




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