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首刈りの一族、その1

お久です。


お久で悪いんですが、数話別視点です。

それは希望だった。










第三次世界大戦で幾百の敵を殺したことが俺の一族の誇り、らしい。

完全コンピュータ制御の無人兵器をやり過ごし、後方に控えていた敵国幹部の首をたった一本の『刀』で『刈って』行ったらしい。

軽視されていた古武術を再び日の目の当たる部分へと出した。


くだらない


なんと言おうが人殺しの技術が日の目を浴びる。

そしてそれを英雄的行動として自慢げに語り継ぐ。


本当に、くだらない


だから、あの日あの時、当時師範代だった祖父の首に刀を突きつけた俺と同い年の少年は、救世主、希望に見えた。










ーーープレイヤー名『ヴォーパル』の【存在意義(レゾンデートル)】を解放します




ーーー解析結果から、新たな【存在意義(レゾンデートル)】を開花
















ーーー【反逆の剣】
















ーーーそれこそが、あなたの【存在意義(レゾンデートル)】です


ーーー続けて、派生能力が紐解かれます




ーーー『鎌刀(かまかたな)』が解放されました。系統は生成系統です










「なあgoo先(グーせん)、本当にこっちに強敵がいるのか?どう考えてもここ初心者エリアだぞ?」


何せ、こいつには既に3回騙されてんだからな。1回目は道順、2回目はものの値段、3回目は……あー……。


「仕方ないでしょ?『マップ』の矢印にここって書いてあるんだから。なに?私の能力を疑うわけ?」


見た目美少女がそう言って反論してくる。しっかし、ホントこいつキレやすいな……。


「いや、そういう訳じゃあないんだが……っと」


話の途中で飛び出してきた黒鼠の小さな首を『鎌刀(かまかたな)』で切り落とす。……これくらいなら体が覚えてるか。


俺の存在意義(レゾンデートル)《反逆の剣》、その派生能力の『|鎌刀《かまかたな》』。

こいつの能力は所謂小烏造りと呼ばれる刀の峰刃の部分を鍔まで伸ばして、実質的な両刃の刀になった刀を生成するというものだ。

鎌は反りの内側に刃が付いてるから、歪曲した刀身が特徴の刀とかけたんだろう。


しかも本来なら耐久性が下がる筈なのに、こいつは斬れば斬るほどに耐久性が上がるという半ば妖刀のような武器だ。

ま、それでも壊れたら終わりだと言われるかもだが、こいつは能力で作ったモンだ。何度でも生成できる。その分、デメリットとして作り直したら斬ったカウントが半減するがな。

そしてそれ以上のデメリットが、なんと言っても弱者を斬り続けても耐久性は上がらないってことだ。


つまりは延々と強者を切り続けろと。死ぬわ。


だから、初期の方でこのネkゲフンゲフン、goo先(グーせん)とパーティーを組めたのは僥倖だった。

こいつの存在意義(レゾンデートル)の派生能力の一つに『マップ』ってのがある。

他人の能力を詳しく聞くのはマナー違反だから詳しくは聞けていないが、どうやら目当てのものをエリアの探索済みの場所に限り、見つけることができるらしい。

という訳で、現在は「強者」って言う条件で探している。

でも、なあ……


「どう見ても初心者エリアなんだよなぁ」


「さっきから煩いね、一回死んどく?」


「そりゃ御免だ」


「だったら黙っときなさい。あと、ああ、100メートルだから、目視くらいはできる距離、に……なに、あれ」


なんだ?


「あれって、なんのこと、だ……」


goo先の視線の先を追ってみると、周囲から切り離されたように感じられる、白い渦巻くモヤがあった。

渦はどうやら中心に向かっているようで、どんどん小さく、球状になっていく。


「っ!警戒!goo先、あれが『強者』だな?!」


「間違いない!寧ろ、あれはなんだ!」


「知るか!取り敢えず口調ぐらい戻しとけ!」


そうこうしているうちに、モヤが球状から円柱状になり、その内側がどんどん見えてくる。


見えたのはこの辺りに生い茂っている長めの草が円形に切り払われ、露出した茶色い地面。

そして滲み出るように出てくる一人の男と、その男の中で小さな珠になった白いモノ。


「……おい」


「……なに?」


「あいつ、気づいてると思うか?」


「顔をこっちに向けてじっとしたままなのを、気づかれてない、と思うには無理があるんじゃない?」


「だよな……」


分かっちゃいたが、あいつは俺らに気づいている。ただ、そこに攻撃する意思があるのかどうかは分からない。

何せ100メートルの距離だ。表情は伺いしれないし、何より相手方は無手。構えが分かりにくい。

近寄ってくるなら別だが……


「くそっ、近寄ってきたか」


「どうするの?」


「……もし、友好的なら決闘を申し込む。殴りかかってきたら……」


「きたら?」


「……応戦するしか、ねえよな……」


近寄ってくる姿だけで分かる。奴さん、歩き方に隙がねぇ。未来予知じゃねえが、負けるのが分かっちまう。


クソが、見るだけで実力差がわかるとか、どんだけ遠い(・・)んだか。というか、あいつはどっちだ?PC(俺ら)側か?NPC(AI)側か?

PCだったらあいつ、リアルでも達人だな。というか、リアルチートだ。

NPCだったとしても、こんな序盤にいるやつじゃないだろ、常識的に考えて。


そんなこと考えてるうちに、距離はもう10メートルもない。どっちだ?敵か?味方か?


「止まれ!止まらなければ斬り掛かる!」


取り敢えずで警告をしておく。律儀に止まってくれるなら、交渉の余地ができる。止まらなければ……デスペナは、確定だな。


生唾を飲み込みながら男を見ていると……男は、面白そうに眉を上げながら、その場で止まった。

どうやら、積極的に敵対するつもりは無いらしい。


「……で、止まったけど、なにかな?用事でもあったかな?」


男はそう尋ねてくる。


「あぁ、一つ、頼みたいことがある」


あぁ、ゲームなのに生きた心地がしない……それもこれも、こいつ、何故か知らんが怖いんだよな。我ながら情けないが。


「……ひとつ、死合って欲しい」


俺がそう言うと、男の雰囲気が一気に和んだ。普通なら殺気立つぐらいならしそうなもんだが……こいつ、やべぇ。俺を遊びをねだる赤子程度にしか見てねぇ……


「ふふ……いいよ、久しぶりにこういうのも、悪くない」


あー、怖ぇ。笑い方ひとつで怖気で鳥肌が立つ感覚がある。要らん感覚再現すんな。


「……では……」


「うん、胸を貸そう。……来な」


「参る!」


その怖気を噛み殺して……俺は、無謀な決闘を始めた。




黒鼠

体長30センチの大型鼠。ちなみにこのゲームではむしろ小型。攻撃方法は突進での体当たり、爪での引っ掻き、齧歯での噛みつきの三つ。

体当たりは当たると軽く衝撃でよろめく程度。

爪での引っ掻きには黒鼠の糞尿が付着しているので、食らうと感染型の毒を貰う。

噛みつきに使う特徴的な齧歯には、胃液と胃液に強いバクテリアが塗りつけてあるため、噛みつかれるとその部分が溶解し壊死する。

ただし、その大きさの代償に素早さを失ったのであまり気負わず戦えば攻撃は喰らわない。

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