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最高階位であるということ

『6月1日。今日は僕と神谷さんの2人きりでお洒落なカフェに行った。この前僕が貸した本のお礼にと、彼女のほうが誘ってきたのだ。学校一の人気者と2人っきりなんて…と最初は緊張していたけれど、本の話や好きな映画の話なんかを2人で熱く語っていると、そんな気持ちはいつのまにか吹き飛んでいた。話しても話しても僕達の話題は尽きなくて、帰りの頃にはすでに夕方で日は暮れかけていた。真っ赤な夕日を背に浴びながら、こちらに満遍の笑顔を向けて話しかける彼女。そんな美しい彼女を見て僕は胸がぎゅっと締め付けられた。そして僕はその時初めて気付いたのだ。僕は彼女に恋をしているのだと』




「階位6…これってどうなるの?」

ステータスウインドウにデカデカと表示された「6」という数字。

マルコ達の話からこれが並々ならぬことであるのはわかる。だが、世界最高の階位を持つという事が何を意味するのかが僕はまだイマイチよくわからなかった。

その意味を、最初に僕に示しつけたのはマルコとアリサの二人だ。

「えっちょっと二人とも?」

なんと彼らは座っていた椅子から降り、僕の前で跪いたのだ。

「どうか…これまでの無礼をお許しください」

震えた声でそう言い。頭を伏せる二人。

階位という言葉、貴族の階位が高いと言った先程のマルコの言葉、そして何より今の彼らの状況。

なるほどだいたいわかったぞ。

この世界は随分とあからさまな身分制度をとっているようだ。下の階位の者は上の者と、たわいない会話をすることすら許されないのだろう。

…くだらない。階級が高かろうと低かろうと同じ人間だ。僕は位の違いが人の価値を決めつけるような制度は大嫌いだ。

「頭を上げて椅子に座って二人とも」

少しばかり怒りを滲ませた声で、二人を席に着くよう促す。

「…ですが」

「いいから早く!」

僕の階位とやらが高い、ただそれだけの理由で態度を変えて話す彼らに僕は少しばかり苛立っているのだろう。口調が少し荒くなる。

マルコ達は恐る恐る僕に言われるまま元いた椅子に座り直した。

「それから、その言葉使いもやめてほしい」

「…それは」

「…僕は意味もなく立場に優劣をつけるのが大嫌いなんだ!」

煮えきれないマルコの態度に、僕はつい大きな声で怒鳴ってしまった。

少しの間静寂の時間が訪れる。

しまった、と僕は思った。彼らにとってこの階位とやらの制度は生まれた時から存在していたもので、彼らにとっては絶対的なものだ。それを異世界から来た僕がとやかくいうのはおかしいではないか。

「…怒鳴ってごめん」

僕はそう彼らに謝るとともに、僕に怒鳴られしおらしくなっている彼らを見て悟った。

僕は彼らと友達にはなれないのだと。

出会ってまだ2日だけれど、マルコもアリサもそしてリンカも、この何もわからない異世界で初めてできた仲間だと思っていた。

それがたった今急につきつけられた最高階位という立場によって崩れ去る。僕はそれがとても悲しかった。

「ごめん、僕もう行くよ」

もうこれ以上僕に気を使う彼らの姿を見ていられない。

そう思って席を立とうとしたその時だった。

「待って!!」

そう言って、僕の腕を掴んだのはマルコだった。

「…マルコ」

「ごめんリュウ。俺達は小さな頃から階位こそ絶対だって教え込まれてきたから…だからまだ、最高階位の君とこうして話すのに少し戸惑ってる」

「…うん」

「でも俺は…本当はリュウともっと話がしたい。これが最後なんて絶対に嫌だ」

マルコは握る手の力を強める。

アリサも最初は戸惑っている様子だったが何かを決断したようだ。

「あたしもリュウが良いっていうなら本当はもっと君のこと知りたい。最高階位の人なんてあたし会ったことすらないもん。今度手合わせしてよ」

手合わせという不穏な言葉が出たがそれは置いておくとして、とにかく今はマルコもアリサも最高階位の僕を一人の仲間として見てくれているようだ。

彼らの気持ちが僕はとても嬉しかった。彼らのお陰で、さっきまで沈んでいた心の中がスッと晴れていくようだ。

「リンカも僕に気なんて使わなくていいからね」

一部始終を静観していたリンカ。

まあ、彼女は僕と同じでこの世界の制度なんて御構い無しだろうから、僕が言わなくてもそんな気はさらさらないだろう。

「言われなくとも、私は初めから君なんかに気を使うつもりはないよ」

全く僕の予想通り答えた彼女は、おもむろに僕がさっきやった時と同じようにステータスウインドウを開く。

「…あたしリンカのステータス、ちゃんと見てなかったけど…もしかして」

「…みたいだね。…君と同じだよリュウ」

リンカに促されて僕は彼女のステータスウインドウを眺める。

彼女の階位の項目欄には、僕と同じようにデカデカと数字の「6」が記されていた。

「最高階位が二人も…」

僕の時ほどの衝撃は無かったものの、マルコとサリアはやはり驚きの顔を隠せない様子だ。

「やっぱり、僕達が異世界から来た人間だってことと関係あるんだろうね」

最高階位という、この世界に住むアリサでも見たことがないと言った程のレアな階位を持っているのが、異世界から来た二人である以上、そう考えるのが妥当だろう。

「まあいいじゃない。最高階位の人間がこの小さな街に二人もいるなんて、ゴブリン達も真っ青ね」

アリサはもう僕達に気を使う気はさらさらないらしい。それは本当に嬉しいんだけど、それとは別に、さっきから彼女の発言の中に少しばかり引っかかる部分がある。

「ねえアリサ。僕達の階位が高いって事と、ゴブリンが真っ青になるってのはなんの関係があるの?」

僕のずっと引っかかってた疑問を彼女にぶつける。

さっきもアリサは階位の高い僕と手合わせをしたいと言っていた。手合わせとは、おそらく剣術か何かの勝負の事を指しているのだろうが、階位が高かろうが僕は運動などできないし、ましてや剣など握ったこともない。エリート兵士であるアリサの相手が僕に務まるとは到底思えない。階位とはその者の身分の高さを示すだけのものではないのだろうか?

「わかったわ、教えてあげる。着いてきて」

おもむろにアリサは席を立つ。

「アリサ…お前…」

「口で説明するより実戦で説明してあげた方が早いでしょ?マルコ」

「お前が戦いたいだけじゃないのか…」

実戦?彼女は何を言ってるんだ。

自慢じゃないけど僕はまるっきりの運動音痴なんだ。それだけは記憶を無くしていようと断言できる。

何やら雲行きが怪しくなってきたぞと不安になる僕とは対照的に、アリサはメラメラと炎が見えてきそうな程やる気の様子だ。

「行くよリュウ、リンカ」

「…ど、どこに?」

「闘技場だよ。この町の外れにあるね」

…闘技場。ますます不穏な響きのそれは、僕をより不安の中に陥れる。

だがメラメラと燃え盛るアリサの瞳を見て、今更それを拒む事など出来なかった。

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