出会い
『5月11日。早速図書委員の活動が始まった。僕達A組以外から図書委員に入ったのはたった一人、B組の神谷さんだけだった。彼女は誰もが振り返るほどの美人で学校でもよく話題になる。おまけに成績優秀。まさに完璧人間だ。そんな彼女がどうして図書委員なんて選んだんだろう。疑問に思った僕は彼女に聞いてみた。どうやら本が好きだからという単純な理由らしい。僕も本が大好きだからその理由を聞いて少し嬉しかった』
「それでこれはどういうことなんだ?」
マルコがアリサに優しく問いかける。
アリサは僕達にことの発端をゆっくりと話し始めた。
アリサの話によると、僕達がアリサのものだと思っていた血痕はどうやらアリサのものではなく、そこで瀕死の状態でのびているゴブリンのものだったらしい。
このゴブリンは一匹でアリサの家に忍び込み、アリサに襲いかかった。しかしそのゴブリンは、アリサの家に滞在していたリンカによってあっけなく撃退され、ここまで担がれてきたと言うのだ。
アリサの話を聞いた僕とマルコは驚愕の顔を浮かべながら、それをやってみせた彼女の方へと視線を向ける。
僕達の視線の先にいるリンカはあっけらかんとした表情でこちらを見つめ返す。
「君が…このゴブリンを倒したのかい?」
「こんな雑魚、私じゃなくても誰だって倒せるでしょ」
リンカは重い口を開いてそう吐き捨てた。
「いやいや、相手は武器だって持ってたはずなのに…」
さらに驚いた事に、アリサを襲ったゴブリンを生け捕りにしたリンカは、そのゴブリンに仲間の住む住処を吐き出させ、近くに潜む仲間の殲滅を試みたというのだ。
瀕死のゴブリンをここまで担いで連れてきたのも、彼らの巣のありかを聞き出すためらしい。
ここまでのアリサの説明を聞いて、僕は一つおぞましい光景を想像した。
「…じゃああの洞窟の中は、まさか?」
「見ない方がいいよ、アイツらの残骸で酷いもんだからさ」
洞窟に近づこうとする僕をリンカは軽く制止する。
よく見ると、洞窟の中から血しぶきの跡のようなものが確認できる。
…あれ全部ゴブリンのもの?
「どうしてここまで…たった二人でゴブリンの巣に向かうだなんて危険だと思わなかったの?」
「…うるさいな。関係ないでしょ君には」
その言葉を最後にリンカは口を閉ざした。
そんなリンカを庇うようにアリサが間に割って入る
「ごめんね君。リンカすっごい人見知りで…私も最初苦労したんだよ」
アリサに「君」と呼ばれて初めて僕はアリサと初対面であったということを思い出し彼女に名を名乗る。
「リンカは…私を守るためにこんなことをしたんだよ。放っておけばまたアイツらが襲って来るかもしれない。だからその仲間も倒しておかないとって」
僕にあんな冷たい表情を向ける彼女がそこまで?
僕は驚いてリンカの方を見る
彼女は心なしか少し照れくさそうな様子に見えた
「君は本当は優しい子なんだね」
今なら気を許してもらえる
僕はそう思って彼女に暖かい笑顔を向けたのだが
「…馴れ馴れしくしないでよ」
こっちまで凍えそうなほど冷たい目つきで彼女は僕の笑顔を拒絶した。
「…なんなんだよもう」
最悪のテンションで僕達は元いた町への帰路に着いた。