097
二日後の木曜日、俺は学校から出る校門で杏那と出会った。
九月も半分以上が過ぎて、暑さよりも心地よい気温になっていた。
学校の木も、青から赤く色づき始めていた。
「杏那じゃないか!」
帰る後ろ姿の杏那に、偶然でたまたま出会った。
「ああ、今日は……」
「わかっている、今日もバイトだろ」
杏那のバイトの日は、俺でさえ理解していた。
「うん、でもすごく不安で……」不安そうな顔を見せる杏那。
それにしても、杏那の様子がどこかおかしいが。
「大会、明後日だしな。あちこちで店舗大会も進んでいる」
「今日も夜九時から……できる?」
「いいけど、大丈夫か?昨日も夜九時までバイトしてゲーセンに行ったけど」
「平気、勝ちたいの」
杏那の気持ちは、いつもどおり何も変わらない。
勝ちたいという気持ちは強く、その執着は俺も憧れるところだ。
「ああ、俺も勝ちたい。どうだ?昨日教えたコンボは?」
「うーん、難しいわね」
「まあ、今日も初心者台で練習だな」
「そうね、あのさ……」
「なんだ?」
「『ドリミカルコンボ』ってキャンセルできないの?」
「ああ、キャンセルできるコンボは決まっている。
まあ、一キャラにはキャンセル技は二種類ぐらいかな。
主人公のユウトは五種類あるけど……それが初心者向きでもあるからな」
「でも、このドリミカルコンボは……どうなの?」
「攻撃の出が、決して早いわけではない。
入れるタイミングは、前に教えた『ユズコンビネーション』も織り交ぜて入れた方がいい。
まあ、カウンターばっかりだったら『ドリミカルコンボ』を使ったほうがいいけど」
俺の言葉に、真剣に聞き入る杏那。だけどその表情の中に、不安そうな顔をのぞかせた。
俺は、そんな杏那の両肩に手を乗せた。
「不安そうな顔をするな、大丈夫だ」
「うん、わかった。信じる」
「ああ、任せろ」
だが、学校でそれをやると女子の多い生徒たちがヒソヒソと噂をしていた。
それを見て、杏那が素早く手を払う。
「でも、勝手に肩に手を乗せるんじゃないわよ」
そう言いながら、杏那はなぜか俺から逃げるように校門から出て行った。




