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祈里の質問後、杏那はリアルファイター5で再び戦っていた。
杏那は『ユズ』で、祈里は、『ジョニー』を使っていた。
テレビ画面では、二人が操るキャラが戦っていた。
杏那と祈里がコントローラーを持って、ゲームをじっと見ていた。
(祈里には、指摘したことは最もだ!)
ならば俺は、じっと見なければならない。
杏那にその力が、あるのかどうかを。
一応キャンセルも覚えたが、キャンセルのある技ではジョニーの『キャノンパンチ』にはかなわない。
(『ユズコンビネーション』はユズの主力の技。キャンセルも使え、上段から入る技。
上段のパンチは、ユズの攻撃の中でも最速。
PPからいろんな派生もあり、キャンセル技で相手の動きを惑わせる。
だけど最速のパンチを、空振りさせてカウンターを入れる『キャノンパンチ』は対処が厳しい)
ユズにとって、絶対おぼえなければいけない技。
だけど、この技やラッシュも上段攻撃が多い。
上段攻撃を避けて、カウンターを入れられて吹き飛ばされてしまう。
だから、祈里が言った言葉を思い出した。
「なんで『ドリミカルコンボ』を使わないの」
その言葉は、俺に忘れていたことを思い出させた。
名前は知っているし、優秀な技であることもわかっていた。
しかも、ユズの技の中では一番優秀なコンボだ。
だが、このコンボには一つ大きな欠点があったのだ。
(コンボはミスしやすく、間違った入力を入れると繋がらないのだ。
繋がらないどころか空振りになれば、相手に攻撃の隙を与えてしまう。杏那にできるのだろうか)
ユズのコマンドリストの中でも、このコンボは特に難しいのだ。
コンボの入力受付時間も短いので、わずかでも遅れるとコンボがミスしやすい。
そのコンボを杏那に会得させるかどうかを、俺は見極めていた。
(今の杏那なら、出来るかどうかそういうレベルか……)
そんな中で、ジョニーのカウンター『キャノンパンチ』が炸裂していた。
ユズが吹き飛ばされて、簡単に倒された。
そんな中でも、杏那を見ていた。むしろ杏那の手元の動きを、じっくりと俺は見ていた。
(いまの杏那なら……いけるかもしれない)
手の動きを見て、俺は確信できた。それは、杏那の右手と左手人差し指だ。
それは、普通に生活しているだけでは絶対にできないものが出来ていた。
それは、杏那の指にマメが出てきていたからだ。




