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夜の街で、杏那は悔しさを前面に出していた。
こういう人間的な表情は、学校ではあまり見せない。
普段は女子たちに好かれていて、人気者の杏那。
杏那にとって、『リアルファイター』はすでに大事なものになっていた。
「負けるのが悔しいよな」
「うん」
杏那の見せるその感情は、俺が忘れていた感情。
春の全国大会、俺は行って初戦負けをした。
ステージの大きさと、圧倒感。デモンストレーションでの練習も、みんなは強かった。
だからあの日、初戦で負けた時は仕方ないと思っていた。
悔しかった感情より、周りの圧倒的な強さを見て諦めがあった。
だけど杏那は、あの時の俺とは全然違う。
心の底から悔しがり、感情を表に出していた。
「そうだよな、悔しいよな」
杏那が負けたことで俺も、次第に悔しさが湧き上がった。
杏那のその表情が、あの時の俺に思い出させたのだ。
俺も負けた、前に竜二と負けたとき悔しさがそれほどなかった。
でも、負けると悔しんだよな。それは本当のことで、当たり前のこと。
俺は悔しがる杏那を、優しく抱きしめた。
「和成……」
「俺も悔しがらせてくれ、弟子である杏那が負けたのは……」
「違う、あたしがいけないの。負けたのはあたしで……」
「そうじゃない、これは俺の負けでもある。
歩美の研究をちゃんとしていなかった、歩美のコーチである竜二は研究していた。
俺のやり方が、間違っていた。だから、俺も負けたのと同じだ」
「和成……」
いつの間にか、俺も顔を歪めていた。泣き出しそうな顔で杏那を抱きしめた。
「絶対勝とう、四日後の店舗大会」
「うん、歩美も参加するし。本当は明日もゲーセン行きたいけど……バイト」
「まだ、時間あるか?」
「え?」杏那と離れた俺が、声をかけた。
「ちょっと、今から俺の家に来ないか?」
「うん」杏那は理由も聞かずに、俺に同意していた。




