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あれから二日後、俺はこの日もゲーセンにいた。
俺が見ている前で、乱入台には杏那の姿がそこにはあった。
夕方のゲーセンは、人の出入りも多く活発だ。もっぱら学生が多いのだが。
杏那のバイトも今日はないことから、ずっとやっていた。
そして、ユズを使っている杏那は乱入者と戦っていた。
相手は『白白山』、見た目通りの力士だ。
だが、ユズの動きについてこられずにポイントを次々と奪う。
「やった、初の連勝っ!」
最終的に三ポイントは取られたが、杏那が勝利を収めた。
これで乱入台二連勝だ、杏那が初の快挙だ。
「おお、すごいな」
「ふふん、どうでしょ、すごいでしょ」
「確かに、すごいな」
一日五百円という制限、そして二週間弱という短い期間でよくここまで強くなったものだ。
相手は称号が『三段』だし、決して弱いわけではない。
十級から始まり、一級になり、初段から数字が増えていく。
級は勝利数で、段も勝利数。三段は150勝以上の称号。
最高段は八段で、1000勝。それ以降の称号は勝率だ。
最低でも60%以下だと段より昇級はしない。反対に降格もあるのだ。
杏那は、画面に再び集中していた。乱入台でアーケードモードを、続けていた。
「はじめの入りも、だいぶ工夫したな」
「わかる?」俺の言葉で、鼻高々で得意げな顔を見せる杏那。
「コンボのキャンセルに投げを入れる、あれで相手は迷う」
「和成が教えてくれたんでしょ」
「まあ、あれはスキも大きいからな」
コンボをキャンセルするということは、僅かに攻撃が止まる。
ターン制で戦う格闘ゲーム、わずかのスキで上級者ともなれば反応して早い攻撃を入れれば潰されてしまう。
ある意味、フェイント的な要素はあった。
それでもコマンド表に書いてある綺麗なコンボだけでは、勝てないのが対人戦なのだ。
「投げを意識すれば、ガードが中途半端になる。
そうなればコンボが繋がりやすくなり、相手を混乱させれば勝機はある」
「まあ、あまり好きな戦いじゃないけど」
「でも、上級者はみんなやる。要は勝ちたいと、どれだけ思えるかだ」
「そうね、その通りよ!」
二連勝の杏那は、ご機嫌で饒舌だ。
調子も良さそうなので、店内のポスターに俺は視線を向けた。
今週末には店舗大会があるし、おそらくこの店舗ではライバルはやはり竜二。
俺がこの近辺で唯一互角に戦える相手で、優勝候補筆頭だ。
(有段者にも勝てるから、竜二と当たらなければかなり上にいけるはずだし……)
だが、そんな杏那が再び乱入された。
それはプレイヤーカード持ちで、名前は『ペリシアン』だった。




