089
夜、あのゲームが終わって帰ることにした。
俺も今日は私服、家から自転車で来ていた。
オーバーオールで長ズボンの杏那と、黒いシャツと短パンの俺が二人で歩く。
夜道を歩きながら、反省会をするのは日課だ。そして、杏那はふてくされた顔を見せていた。
「なによ、あんなコンボ知らないんだけど」
「あれ?あれはキャンセル。決められたコンボ技を全部入力しない」
「そんなものあるなら、ちゃんと教えなさいよ!」
「これは俺のほぼオリジナルだし、技は決められたコンボだけを入れるのが正しいわけでもないし」
「むー、それに最初の四本は手を抜いていて……」
「それも、違う」
俺はそう言いながら、否定した。いや、気持ち半分以上正解なのだが。
「だって、最初から相手にポイントを渡したら勢いがつくでしょ」
「まあ、戦いには流れがあるからな。流れに乗ったほうが勝つ。
それはコンボミスや、ガード成功など。
だけどその流れを呼ぶのは、動きをよく見る必要がある」
「動きをよく見る?」怒りを少し抑える杏那。
「前にも言ったと思うけど、ゲームをしないときは相手のプレーを見ろって言ったよな。そういうことだ」
「でも負ける必要は、なくない?」
「対人戦は、五ポイント制だ。最初に説明しただろ」
俺の言葉に、真剣な顔で杏那が頷く。
「乱入台も五ポイントだし、大会だって五ポイント。
いかに早く五ポイントをとるかが勝負のポイントだ」
「それはわかるけど、それがどうしたの?」
「戦いは流れがある、いわば生き物だ。最初の五ポイントの取り方は、人による。
中には、最初の何ポイントかを様子見に使い、後半勝負する奴だっている」
「本当にいるの?」
「強い奴はやるぞ。俺も危険な相手や、新キャラを使うやつにはよく使う手段としてある。
動きを見せることで、相手を油断させることもあるし」
「ふーん、まあ、そういうことにしておいて……げっ!」
杏那は、いきなり俺の話すトーンから顔が引きつっていた。
俺の前に、一台の車が止まる。その車は高級車だ、ドアが開き、一人の人間が出てきた。
「あら、あなたたち随分と仲がいいのね」
そこにはメガネをかけたロングカールの女がいた。
なにより、それは最悪の人間の歩美だった。




