088
この時間帯のゲーセンには、人が少ない。
日曜でも、昼と夜ではだいぶ違う。
俺は一人、乱入台でゲームをしていた。後ろに、杏那と数人のギャラリーを背負い。
プレイヤーカードを使わないと、戦績は表示されない。
使うキャラは、『ユウト』。だけどはじめの敵からポイントを失う。
「ねえ、なんで手を抜くの」
「これは作戦」ポイントは失うが、三ポイント目をとらせない戦い。
「作戦って?」
「俺はガチでやったら、誰も戦わないからな」
「それって、インチキじゃない!」
「厳密に言うと……おい、杏那!」
「あんなの、正しくないわ!」
杏那は、怒って乱入台の裏に入った。
そのまま、杏那は容赦なく乱入していた。
(あーあ、もったいないな)
そう言いながらも、俺は負ける気はしない。
杏那は入って、予想通り『ユズ』を選ぶ。
(とりあえず、少しは華を持たせるか)
そう言いながら、俺は杏那との戦い自体をコントロールしていた。
戦いながら杏那のユズの動きは、良くなっていた。
間合いの取り方、試合の入り方、コンボの正確さ。
日を追うごとに、技術は高くなっているのが分かった。
(それでも、まだまだ駆け引きに甘さがある)
最初の四ポイントをユズに奪われた。いや、わざと奪わせた。
一気に王手をかけるユズ、だけど俺は慌てていない。
(格闘ゲームはターン制、だが攻撃の引き出しの数が上回れば有利になる。
そして、それが見切られたとき……)
俺はユウトの連続技を見せた。コンボを覚えているユズが、ガードをする。
だけど、最後の二発のコンボを止めた。
そして、最後の二発を変化させて投げに切り替えていた。
ガードしていると、投げはよくはいっていた。
そういう戦い方で、俺は杏那から五ポイントを奪い返していた。
画面には、俺の操った『ユウト』が勝利のポーズを決めていた。




