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俺に対し、竜二は不満そうな顔を見せた。
手には、自分のプレイヤーカード。そこには竜二の95敗の文字が刻まれていた。
それでもゲームが続く俺は、黙々とやっていた。
ギャラリーもあの後の乱入を試みる者は、今のところ現れない。
「くそっ、また負けたじゃねぇか!」
「そうだな」
「相変わらずだな」
「最近、俺のユズが強くなったみたいだ」
「アイツに教えていたからか?」
「ああ」ゲーム画面では俺は、ライバルキャラの『デス・ストロング』と戦っていた。
アーケード三本制のうち、最初の二本はコンボの練習をしている。
つまりはほぼ倒しに行かないで、わざと負けていた。
「そういえば、今日はお前の弟子はいないのか?」
「バイトだ。今週は一週間前倒しでバイト入れてもらった」
「来週?ああ、いよいよ店舗大会だな」
竜二は、そう言いながら初心者台のそばに貼ってある大きなポスターを指さす。
無論、俺もそれは知っていた。
「今日のリベンジは、次回必ずやるからな」
「竜二……あのな」
「どうした?和成?」
「今回、俺は出ない」
俺は一言、竜二にそう言っていた。
次の瞬間、竜二が俺のシャツの襟を乱暴に掴んでいた。
「お前、ふざけるなよ!」メンチの効いた脅しのような目で、俺を睨んでいた。




