084
乱入台、夕方だけどちょうど一セット空いていた。
杏那は奥に座り、歩美は俺のいる手前側。
一応杏那の情けもあるが、初めてやる歩美にやり方の説明をした。
歩美は、意外にも2D格闘ゲームをやったことがあるという話をしていた。
ゲーセンには慣れていないものの、それでも格闘ゲームをしている経験のある女子だ。
歩美にボタン操作と、おすすめキャラを教えて俺は離れた。
俺の立場的に今回は、どちらの味方もしないスタンスで見守ることにした。
(さて、杏那は勝てるだろうが……)
杏那がやっているところに、すぐさま歩美が乱入した。
歩美は俺の指示どおりに、『ユウト』を選んだ。初心者用のキャラで、性能もいい。
一方の杏那も『ユズ』で、メインキャラを使う。
そして、杏那と歩美の代理戦争?が始まった。
結果は予想通り、五分後に勝利の名乗りを上げたのは、
「あたしの勝ちね!」
乱入台の奥から、杏那の勝ちを喜ぶ声が聞こえた。
最初の一本目から杏那のペースで、歩美はぎこちない。
終始、杏那のペースで圧勝だった。
そして、俺の前では歩美が悔しそうな顔で椅子に座ったままだ。
「歩美……負けたら椅子をドくんだ」
「なぜですの?」
歩美は、信じられない落ち込みようだ。
「まあ、気持ちはわかる」クラスメイトが落ち込んでいるので、なんとか慰めようとしていた。
だけどライバルとして自分が認めている杏那に、完璧に負けたのはショックでしかない。
そんな歩美の表情が、今にも泣き出しそうな顔になっていた。なんだ、歩美は。
「お、おい、泣くな!」
「だって、だって、あんなに完敗するなんて……」
「まあ、杏那の挑発だ。あいつは結構練習もしていたし」
「でも、でも……」
だけどそんな歩美を慰める俺の傍らで、席に着いた奴がいた。
その姿を見て、俺は驚いた。
その椅子には、竜二が座っていた。もちろんカードを入れて、杏那に乱入していた。
赤く染めたヤンキーは、鋭い眼光でキャラを選ぶ。
もちろん得意のキャラの『カムチャット』ではなく、なぜかボクサーの『ジョニー』を選んでいた。
竜二の強さは、得意キャラではないが、杏那と比べ物にならない。
いきなり最強クラスの竜二に乱入されれば、杏那では歯がたたない。
そして、竜二は華麗に杏那のユズに、ポイント一つも渡さずに勝利を収めた。
それを、半泣きしている歩美はじーっと目に焼き付けるように見ていた。
泣き出しそうな涙を、拭いながら。




